110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ギブソン、敗訴によりEUでフライングVの立体商標の権利を失う

ギブソン、敗訴によりEUフライングV立体商標の権利を失う
栗原潔 | 弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授
7/4(木) 13:30
 GIBSON LOSES FLYING V TRADEMARK CASE IN EU COURTというニュース(Guitar.com)がありました。ギブソン社の有名なV字型ギターであるフライングV立体商標登録の楽器を指定商品とする部分について、同社が競合他社の請求による取消について不服申立の訴訟を提起したところ、それに敗訴したという話です。
 一般に、商品の立体的形状をそのまま商標登録することは可能ではありますが、きわめてハードルが高いです。使用による識別性(別名、セカンダリーミーニング)、つまり、形状を見れば消費者がその製品とわかるくらいの知名度を備えていなければなりません。商標権は更新料金さえ払えば永遠に権利を維持できますので、商品の立体的形状の使用を独占できることはきわめて強力な権利であり、その取得ハードルが高く設定されるのは当然と言えます。
 過去に日本における商品形状そのままの立体商標が登録されたケースについて記事を書いてきました(きのこの山、ホンダカブ、キッコーマンの醤油瓶)が、いずれも、使用による識別性を立証するために、大量の証拠を提出し、相当な苦労の上に登録されています。このハードルの高さはEUも同等以上です。
 問題の商標登録の番号は009179953です。フライングVのボディ部分のみの登録です。指定商品はコンピューター関係(9類)、楽器類(15類)、衣類(25類)ですが、今回の取消の対象になったのは15類のMusical Instrumentsのみです(その他の指定商品に関する権利には影響はありません)。登録は2010年6月です。
 ギブソン側は、大量の証拠により、フライングVが欧州市場において使用による識別性を獲得していることを主張していますが、欧州裁判所は認めませんでした。
 主な理由としては、V字型形状のギターは1958年の登場時点では斬新な形状であったかもしれないが、登録時点(2010年)では同種形状のギターが多数存在しており特に顕著ではなかったこと、消費者調査により使用による識別性を立証しようとしたが調査は欧州の一部の地域に対してのものであり欧州全域で識別性を獲得していると推定できないこと(なお、元々の取消決定では、V字型形状からギブソンを連想した消費者が3分の1以下に過ぎなかったことが理由の1つになっていました)などが挙げられています。
 さらに、ギブソン社側が知名度の証拠として提出したハードロックカフェ(シカゴ店)のV型のギターのネオンサインは、まさに、V字型ギターがギブソンの特定の商品の標識ではなく、ひとつのライフスタイル(ハードロック好きの人のライフスタイルということでしょうか?)を表わすために使用されているのであって、使用による商標の識別性には結び付いていないと裁判所は判断しました(皮肉なことに、ギブソン社は自分自身が提出した証拠により、かえって不利になってしまったわけです)。
 ご存じの方も多いと思いますが、ギブソン社の業績は右肩下がりで、昨年にはチャプター11を申請し、現在は再生ファンド傘下にあります。本業が傾いた企業が知財のマネタイズに走るのはよくある話ですし、企業資産の有効利用という点で悪い話ではないのですが、本業が好調な時にこそ知財保護をしっかりやっておくべきだったと思います。そういう意味では、フライングV立体商標ももう少し前に出願しておくべきだったかもしれません。

 マイケルシェンカー、と書こうとしたが、やはり、ウィッシュボーン・アッシュのアンディ・パウエル、そして、Jガイルズ(どうもVオンリーではないようだが)、私は不慣れなジャンル(Blues)で、アルバートキング、わざとローズは書かない。
 上に上げたようにVを持っている人は、良いギタリストが多いなぁ…