110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

脱炭素、脱ロシア、脱中国…エネルギー連立方程式を解け

news.yahoo.co.jp

敵対視しているのだが、中国が再生可能エネルギーの分野で先端を走っている以上、日本もなんらかの形でコミットせざるを得なくなるのではないだろうか?

逆に、化石エネルギー大国、アメリカはどうしていくのだろう?

現在のように、G7、NATOを持ち上げることで、20世紀的な覇権を維持しようとするのだろうか?

脱炭素、脱ロシア、脱中国…エネルギー連立方程式を解け
6/8(木) 13:06配信 Wedge(ウェッジ)
 エネルギー、化石燃料の賦存は世界の中で偏在している。石油資源に恵まれる中東諸国、石炭から天然ガスまで豊富に持つ米国、豪州のような国もあれば、日本、韓国のように資源がなく、化石燃料の輸入に依存せざるを得ない国もある。
 世界の多くの国は、エネルギーを自給することが叶わず輸入に依存せざるを得ない。中には、中国のように経済発展に伴い国内資源だけでは需要を賄うことができなくなり、石油、石炭、天然ガス、すべての化石燃料の輸入が必要になった国もある。
 世界が発展するに連れ、エネルギー消費量は増加し貿易量も伸びた。エネルギーが途絶すれば、経済も家庭も死に絶えるのだから、エネルギーを輸出する国の影響力は拡大する一方だ。つまり、エネルギーの覇権を握れば世界を動かすことも可能だ。
 エネルギーの世界で覇権を握る国が世界を混乱させ、経済に大きな影響を与えることを、私たちは1973年の石油危機で、最近ではロシアのウクライナ侵略で思い知ることになった。
 ウクライナ侵略を受け、世界の主要国が脱ロシア産化石燃料を進める中で、ロシアは覇権を失った。次の覇権を握る国はどこになるのだろうか。
 脱ロシアに加え脱炭素の動きが強まる中で、次のエネルギーの覇権争いをするのは化石燃料大国米国と再生可能エネルギー(再エネ)設備供給大国中国になる。日本はどうエネルギーを確保できるのだろうか。
エネルギー覇権の変遷
 50年前覇権を握り世界を混乱させたのは、中東の産油国を中心とする石油輸出国機構OPEC)だった。
 73年秋、石油の価格は突然4倍になり、しかも親イスラエル国は石油の輸出禁止対象とされた。当時世界の一次エネルギー(電気、ガソリンなどに加工される前のエネルギー)供給の46%は石油だった。
 日本のエネルギー供給に占める石油の比率は75%超あり、世界全体より石油依存度が高くなっていた。エネルギーを輸入に依存する日本のような国では、安価かつ輸送が容易な石油依存が高まったためだった。
 第二次世界大戦後、日本を含めた世界の主要国は石炭の生産を増やしたが、戦争前に発見されていた中東での大油田からの生産開始が安価な石油を大量に供給することになり、主要国のエネルギーの主役は短期間に石油に変わった。
 国内に炭鉱を保有する国は、エネルギー安全保障と地域経済への影響を考慮し石炭の生産を続けていたが、鉄鋼用の原料炭以外に燃料用の石炭が輸出されることはなく、貿易されるエネルギーの9割は原油だった(図-1)。
 73年の石油危機後、石油依存からの脱却のため主要国は原子力天然ガス、そして再度石炭へエネルギー源を分散した。エネルギー貿易では天然ガスと石炭が徐々にシェアを増やした。21年の世界と日本のエネルギー供給と貿易は図-2の通り変わった。
 その結果、新しくエネルギー覇権を握ったのは、世界一の化石燃料輸出国にのし上がったロシアだった。21年時点でロシアは世界の天然ガス貿易の約20%、石炭の18%、原油と石油製品の12%のシェアを持つ(図-3)。
 ロシアはウクライナ侵略を始める前から、エネルギーを武器として利用し供給量を削減し欧州諸国を脅かした。

覇権を失うロシア
 全ての化石燃料で大きな世界シェアを持つエネルギー生産国は米国。ロシアは米国に次ぐエネルギー生産国だが、米国ほどの国内消費量はなく、主要国が石油から天然ガス、石炭へエネルギーの分散を進める過程で世界一の化石燃料輸出国になった。
 特に73年からパイプライン経由で天然ガスの供給を開始した欧州諸国とは海底パイプラインの新設により絆を深めた。50年前旧ソ連との間でパイプラインを開設した旧西ドイツの狙いは、相互依存の強化による冷戦の緊張関係の緩和と当時欧州で存在感を高めていた米国の影響力を弱めることにあったとされる。
 2011年のノルドストリーム海底パイプラインの開通により、欧州連合EU)諸国は、天然ガス需要量の約50%をロシアに依存するようになった。
 ロシアのウクライナ侵略後、EUはロシア産石炭、原油・石油製品の輸入禁止に踏み切り、天然ガス購入量も抑制を続けている。
 ロシアは石油についてはEU市場に代わり主としてインドに販売することにより販売量を維持しているとみられるが、パイプライン経由の天然ガスの販売数量は大きく落ち込んでいる。
 ロシアは液化天然ガスLNG)の輸出能力を現在の年間3000万トンから1億トンに増強する計画を発表したが、見合う需要を見つけることは困難だ。今後、ロシア産化石燃料の輸出数量は段階的に減少するとみられる。
 主要国に脱炭素の動きがあるとはいえ、世界の化石燃料依存がまだ続く中でロシアはエネルギー覇権を失うことになる。

世界で依然として続く化石燃料への依存
 再エネに関する多くの報道が目につくが、世界のエネルギー供給における比率は、水力、薪を含めても16%に過ぎず、依然として主力は化石燃料だ。石油、石炭、天然ガスの供給シェアは、それぞれ29%、27%、23%。合計では約8割を占める。
 これから再エネの比率が増えていくが、それでも化石燃料は依然として供給において大きな位置を占める可能性が高い。
 国際エネルギー機関(IEA)は、将来の脱炭素に向けた分析を行っている。現在の政策設定による予測(公表政策シナリオ-STEPS)では、石炭の減少はあるが、石油と天然ガス供給量は今よりも増える(図-4)。
 日本を含め各国が表明したネットゼロを含む意欲的な目標が全て達成される前提の予測(表明公約シナリオ-APS)においても、50年に化石燃料は今の半分程度使用されることになる(図-5)。
 いずれのシナリオにおいても、再エネは大きな伸びを示しており、現在の3倍から4倍の導入量となる。
 世界が温室効果ガス排出量ネットゼロを目指すのであれば、再エネ設備の導入量はさらに増える。50年ネットゼロ実現シナリオ(NZE)では、50年の化石燃料利用の大半には二酸化炭素(CO2)の捕捉貯留設備(CCUS)が必要になるとされ、50年のエネルギー供給の7割は、太陽光、風力、近代的バイオマス利用などの再エネになる(図-6)。
 現在の政策に基づくSTEPSからネットゼロを目指すNZEまでエネルギー構成の差は大きい。成長しながらエネルギー消費量を抑制し、送電線整備費用などが必要となる再エネが供給の主体になるNZE達成には大きな困難が伴いそうだ。
 世界が進む道により、米国、あるいは中国どちらかの国がエネルギー覇権を握ることになる。

化石燃料大国」の米国
  ロシアに代わり当面のエネルギー覇権を握るのは、間違いなく米国だ。天然ガスも石油も世界一の生産国であり、米エネルギー省情報局(EIA)は現在の政策継続ベースの予測では生産量は増えるとみている(図-7)。
 EIAの化石燃料の標準的輸出予測は図-8の通りだ。LNGの輸出数量は年間8000万トンから、30年半ばには年間2億トンに達し、世界一の天然ガス輸出国になる。
 加えて、原子力発電でも小型モジュール炉(SMR)の開発で世界の先頭を走っている。フィンランドなど米国のSMR導入を望む国がEUではいくつかある。
 世界がネットゼロを目指しても50年断面で依然大量の化石燃料が使用されることが想定されるし、ネットゼロが達成される世界でも、米国は化石燃料生産をベースにエネルギー覇権を維持できる可能性がある。
 米国の石油・天然ガス業界は、化石燃料から水素を製造することが可能だ。製造過程で発生するCO2については、昨年8月に成立したインフレ抑制法の中で制度が改正され、補足・貯蔵を行えばCO2 1トン当たり60ドルから85ドルの税額控除が認められた。
 水素製造時にも税控除が適用され、米国製の水素は競争力を持つことになる。日本、韓国などが米国製のCO2フリーの水素を輸入し、エネルギーの米国依存を続ける可能性がある。

「再エネ設備大国」の中国
 化石燃料の使用が50年断面でも続く可能性が高いとはいえ、IEAが想定するシナリオでは再エネ設備導入量も大きく伸びる。STEPSシナリオでの50年の太陽光発電量は、21年の10倍、風力5倍だ。NZEシナリオでは太陽光25倍、風力12倍が想定される。
 大量の設備が必要となり、中国が製造の大半を担う可能性が高い。レアアース、鉱物の多くを生産し(図-9)世界最大の再エネ設備市場でもある中国は、再エネ設備の部品から製品まで大きな世界シェアを保有している。
 太陽光発電設備の国別導入量では中国は世界一だが(図-10)、太陽光パネルの材料であるウェハーの世界シェアは96%。セルのシェアも78%ある。モジュールのシェアは73%で、世界の太陽光パネルのほとんどは中国製部品に依存している。
 風力発電設備については、やはり中国が世界最大の導入国であり、風力部品のナセル、タワー、ブレードの中国の製造能力の世界シェアは図-11の通りだ。
 中国製品がなくては、世界の再エネ設備供給に支障が生じる。EUも米国も強権国家中国依存を抑制するため自国あるいは同盟国内での調達比率を増やす計画を立てているが、再エネ設備の必要量が大きく増える中で、脱中国部品、製品は難しい。
 世界が脱炭素を加速すれば、中国依存も高まることになる。

どうする日本
 日本も他主要国と同じく、洋上風力を中心に再エネ導入増の方針を打ち出している。国内での部品、製品の製造を狙っているが、既に部品供給のネットワークが世界的に構築されている中で、競争力のある部品、製品の供給は難しい。事業者は中国から価格競争力のある設備を導入することになる可能性が高い。
 脱中国には実務面で困難が伴う。脱炭素と脱ロシア、脱中国を同時に進めるのであれば、再エネに大きく依存することができない現実を直視すべきた。
 エネルギー安全保障、自給率向上のための日本の戦略は限られている。一つの方法は、米国が開発を進めるSMRの導入により中国依存の軽減を図ることだ。SMRからの電気で水素を製造することも可能だ。
 部品供給を含め真剣にエネルギー安全保障問題を考える時期にきている。
山本隆三