110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ブヴァールとペキュシュ(フロベール著)

 本書は岩波文庫版で読む。

 本作品を知ったのは「物語批判序説(蓮實 重彦著)」で「紋切型辞典」について論旨を展開していたからだ。
 その蓮實氏の著作の内容については、お恥ずかしい話だが、忘れてしまったのだが、フロベールの作品名だけは脳みそのどこかに引っかかっていたのだろう。
 
 さて、本作品は残念ながら絶筆であり完成されていないが、岩波文庫版では、翻訳者の取り計らいでどのような構想を持っていたかを推測できる様に、解説に書かれている。
 そして、本作品の読み方だが、ブヴァールとペキュシュという2名のやっていることを、単純に面白おかしい話として読むのも良し、その奥にある、フロベールの皮肉・諧謔を読み取るのもよし、さらに、踏み込んで、そういう多数決の世の中で、隠されてしまったことを見つめて、世の中が突然不安なものと感じられても良い。

 私は、この本を現代に当てはめて読んでみても、なかなか得るものがある作品だと思った。
 ブヴァールとペキュシュという2人が、偶然知り合い、性格は全く異なるのに、何故か一緒に暮らし始める。
 そして、世の中の様々なことに真面目に取り組み始める、農業、科学、考古学、文学、政治、哲学、宗教、等々・・・そして、真面目に取り組めば取り組むほど、その真実が見えなくなり、それを表白すると、「懐疑主義」というレッテルを貼られてしまう。
 しかし、良く読んでみると、真面目に取り組んでいるのは、どちらかというとブヴァールとペキュシュであり、各種の書物を正反合わせて読むことで客観的な意見を持っているのにも関わらず、(何故か)例えば宗教や政治にからんだりすると、否定されたり棚上げされてしまう。
 これは、現在も継承されている事(不条理)であろうかと思う。

 例えば、専門家と言われている人が、何故か、リアルな事件が発生すると全く役に立たなかったりする(予言と回想については雄弁なのだが)。
 そういう状況を、私は何度か目撃しているのだが・・・・

 そんなことを、本書で共感すると「紋切型辞典」の存在価値や興味が盛り上がるのだが、つくづく、未完成である事が悔やまれるのだ。