110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

YS-11(前間孝則著)

 本書は、講談社刊行のもの(1994年初版)。

 YS-11プロジェクトは、失敗に終わったとされる、私も大して関心を持っていなかったのだが、本書を読んで様々なことを考えた。

 そもそも、YS-11という純国産の旅客機をつくるというプロジェクトが、日本の歴史の中で極めてまれなものであったことだ。
 また、結論としては、このプロジェクトは大きな赤字を出したとして解散され、その後の国内航空機産業は、海外の大手メーカーとの提携(下請け)で存続している形態、すなわち主導権を取ることのできない立場にある。
 しかし、本書が発刊された当時も、総出荷数180機のうち110機以上が現役で空を飛び、ついには、名機100選のなかにまで数えられるまでにいたった機種を何故途中で手放したのか(当たり前に、採算が取れなかったからなのだが・・・いわゆる資金切れだが、しかし)?

 本書を読むと、まずはじめに、戦前の飛行機を作った5人の名設計者の復活プロジェクトの感覚を受ける。
 しかし、彼らの武勇伝は途中までで、その後は東條輝雄を中心とする若手のプロジェクトに移管され具体的にプロジェクトは煮詰められていく。
 そして、機体の完成がちかずくにつれ、今度は営業面、そしてサービス面の課題が浮き彫りになる。
 
 本プロジェクトは、本体の完成を追求するということに集中するあまりに、民間需要では当たり前とされる、サービスマニュアルの手配さえせず、また、高額な商品を販売するための代償としての多額の営業経費すら予算計上されていなかったという、今の人にとっては、おそまつな体制であったのだ。

 しかしそれでも、YS-11は輸出されたのだ、国内に今まで存在しなかった産業を立ち上げ、最初のプロジェクトは赤字であった、しかし、歴史に「もしも」が無いのは当然だが、このプロジェクトで得た経験をもとに新しいプロジェクトを継続することができてのならば、そういう、リスクをとることができる体制だったならば、YS-11の後継機(YS-33とか)は、黒字を叩き出したのであろうか?

 このYS-11の経験は、この先の日本を考えていくときに何か良いヒントとなるかもしれない。
 再び新しいプロジェクト(産業)に(国として)リスクをとっても挑戦しなければならない時がくるのではないかと思うからだ。
 YS-11プロジェクトは、単なる失敗プロジェクトではなく、何か新しいことを始めるときの一つの経験談ケーススタディ)として覚えておいても良いと思うのだ。

 当時には、こんなにリスクのあるプロジェクトを指導する官僚がいたことに驚いた。