110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

上海にて(堀田善衛著)

 本書はちくま学芸文庫版で読む。

 最近、宮崎駿に興味があるので関連著作があると読んだりする。
 その中で宮崎氏が堀田善衛という名前を上げていたので、何か読んでみようと思っていた。
 私が入手した本書は痛みがひどく安く入手したもので、当初ははじめの一冊とばかりに高をくくっていた。
 しかし、本書は考えさせられる要素が多い。
 宮崎駿についてその思想面、ある意味旧態的だったり、社会(マルクス)主義だったりするところを、世に評価される数々のアニメ作品と比較して、悪しく批判するような本もあったのだが、実は、彼の作品が美しいのも、氏が批判された部分も含めた宮崎駿という人間全体が創り出していることに気づかなければならない。
 トトロで想定された昭和30年代の画面は美しいのだが、それは、失われたものであり、かつてはあったものだということを特に大人たち(私らなどの年長者)に認識させようとしているようにも思うのだ。
 だから、子供たちは彼のアニメを何も考えずに(フィクションとして)楽しめば良いのだが、大人たちは、自分達が失くしてしまったものを多少の後悔をもって見ることも必要なのではないかと思うのだ、やはり虚像よりも実像だと思うのは、現代的な考え方ではないのかもしれないが・・・

 さて、話は脱線したが、本書では、戦後の日本と中国を比較して、日本が表面的な成功の影で失ったものと、中国が多大な犠牲のもとに奪い取ったものが書かれているように思う。
 全体的な論調には、現在から見ると(ちょうど後出しジャンケンをしているように)簡単に批判できてしまいそうな部分もある、しかし、問題の原点を考えて見るならば、日本という国は、あまりに違う方向に進みすぎたのではないかと(歴史には「たられば」はないのだが)思うのだ。

 戦後生まれの私にはこれを書く権利は究極的にはないのと思うのだが、それでも「戦後(処理)は終わっていない」と思う(宮崎駿という人もそういうことを未だにひきづっているのかもしれないな)。