110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

リクルート事件・江副浩正の真実

 本書は中公新書ラクレ2010年刊行のもの、100円棚にあったので手にする。

 先だって、国家の罠佐藤優著)を読んでいたので、少し免疫ができていたのか本書もある程度冷静に読むことが出来た。
 
 本書には「リクルート事件も報道が続いているから、立件することになった。新聞は世論。特捜は世論に応えなければ、権威が失墜する」という検事の言葉や、「合同捜査会議は、新聞報道をもとに政治家を起訴する方針を決めるのか。私は慄然とした」などという結構衝撃的なところが散見される。

 ちなみにwikiで調べても、「リクルート事件リクルートじけん)とは、1988年(昭和63年)6月18日に発覚した日本の贈収賄事件である。リクルートの関連会社であり、未上場の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として譲渡された。贈賄側のリクルート社関係者と、収賄側の政治家や官僚らが逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、大スキャンダルとなった。当時、第二次世界大戦後の日本においての最大の企業犯罪であり、また贈収賄事件とされた。」と容赦はない。

 でも、本書を読むと、本当にそんなに贈収賄がおこなわれたのだろうかと疑問に思うのだ。
 「いや、それは江副浩正側から書かれたものだから」という声もありそうだが、どうもそうではないようにも思う。
 ここら辺に、裁判というものの恣意性というものが浮上してくる。

 リクルート事件の裁判は13年におよんだ、様々な起訴案件があったのだが、全て有罪、執行猶予という形をとっている。
 また、一応、検察側、弁護側双方控訴をしなかったので結審したが、これらは、第一審の判決であり、さらに続ければ、現在も係争中という可能性もありえた。

 事件当時の1988年、1989年には様々な報道が飛び交ったのだが、結審した2003年には、報道陣の数も激減し、記憶に残る事件となって当時の供覧は完全に沈静化していたという。

 私は事件当時、ほとんど興味がなかったと思う。
 当時のリクルートは、日の出の勢いで企業成長を遂げていた、事件を聞いて、単純に、「賄賂をつかって便宜を図ってもらったんだなぁー」くらいの認識であった。
 世間が騒ぐから、「(江副は)凄い悪いやつなんだろう」みたいに、完全にポピュリズムにはまっていたわけだ。
 
 でも、もう少しその事件に近づくとまた別の色が見えてくる。
 歴史の検証のように、それは、事件の落ち着いた後、しみじみと見直すと出てくるものなのだろう。

 先ほどの佐藤優がある意味理不尽な裁判にあまり不満がないよう見えたのは(私にとっては)意外だったが、本書での江副氏も、裁判や捜査についての不満を本書では覗かせるのだが、結審後、余り恨みを抱いていないように見えるところが、意外というか救いではあった。

 ちなみに、2017年12月に刊行された「江副浩正(馬場マコト。土屋洋共著、日経BP社)」は高評価されている。
 既に、鬼籍にはいられた人だが、本当の本物は、伝説を残すものなのだろう。