110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

現代の焚書

 劇場版の「響け!ユーフォニアム」のDVDを見ていた。
 京アニは作品の中にとんでもないこだわりを見せるところがある。
 本作品でも、アニメとはいえ、各楽器の演奏パートは実際の演奏を模写しており実際の演奏と違わない指使いをしている、それに呼応するように、各楽器の描写も一切手抜きがないことで、プロも絶賛しているほどのクオリティなのだ。
 しかし、その労作のソースは消失してしまった。
 完成され、私たちの目に触れる作品は残ったのだが、その作品を構成してきた各パーツは公表されなかった部分も含めて失われてしまったのだ。

 かつて、ギリシャ哲学は、中世の暗黒時代に焚書として処分されたが、かろうじてアラブ諸国が翻訳したものを保存していたので、奇跡的に現代に残って影響を及ぼしているのだが、もし、そういうバックアップが無かったのならば、私たちの歴史も数百年単位で遅れていた可能性があるのだ。

 今回の京アニの事件は、全世界的な情報量としては些細なものかもしれないのだが、とても貴重なデータを燃やしてしまったことになる。
 (いわゆる現代の焚書だ)
 確かに「響け」のような実際の画像をアニメに移すような描写は、CG処理の更なる発展により簡単にできてしまう時代も来るだろう、しかし、過渡的な時代にリアリズムを追いかけたというその情熱は、後世にも評価されるものなのではないのだろうか?

 多数の人命を失ったことが何よりも一番の後悔だが、後世に残したいデータ(ソース)を焼失したことは次なる後悔となることだろう。