110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

日本人の「読解力」が劇的に落ちている確たる証拠

佐藤優の記事、彼を批判するコメントも散見されたが、私にはそんなこととてもできない。

思想や信条は、噛み合わないこともあるかもしれない、しかし、テキストの読解に関して、彼は化物のような人だ。

日本人の「読解力」が劇的に落ちている確たる証拠
10/6(水) 15:01配信 東洋経済オンライン
日本人の「読解力」が落ちていると言われています。OECD(経済協力開発機構)の調査(2018年)では、日本の読解力の順位が前回調査(2015年)の7位から15位に下がりました。なぜ今、日本人の読解力は落ちているのでしょうか。落ちた結果、どんな不具合が生じているのでしょうか。外交官として、作家として読解力を磨き続けてきた佐藤優氏が、近著『読解力の強化書』をもとに解説します。

■本を読むほど思考が偏る
 そもそも、「読解力」とは何でしょうか?  言葉の通り解釈するならば、それは「読んで理解する力」「読み解く力」ということになります。では、本をたくさん読んでいる人が、読解力が高いかというと、必ずしもそうではありません。インターネットを駆使してたくさん情報に触れている人が、読解力が高いか?  これもまたそうとは言えないのです。
 むしろ情報や知識にたくさん触れているのに、自分の考えや先入観に凝り固まり、他人の意見や自分とは異なる考え方を聞き入れようとしない人が増えているように感じます。
 素直にテキストを読まない、素直に人の言うことを聞かない。自分の考えが先にあって、異質なものを受け入れない。たくさん本を読んでも、情報に触れても、自分に都合のいいものだけを受け入れ、都合の悪い情報は捨ててしまうのです。これでは本を読むほど、情報を集めるほど、思考が偏ってしまいます。
 その典型的な例が、最近巷に増えている陰謀論や謀略史観でしょう。特定の秘密結社や集団が、世界の政治経済を牛耳っているというような考え方は、以前からありました。
 私自身、以前は外務省でインテリジェンスの仕事をしていたので、それこそ国家の陰謀や策略のうごめく世界で活動してきました。国際社会の中で、実際に様々な国や集団が、自らの利益を最大化するために、日々駆け引きしています。しかし、新型コロナはアメリカと中国のウイルス戦争だなどという話になると、あまりにも非現実的です。
 陰謀論に凝り固まっている人は、どんな情報やテキストに触れても、それを補強するものにしか目が行かない。都合のいい情報だけを選択し、どんどん先鋭化していきます。そして陰謀論を否定する人を、情報収集能力がなく、真実を知らない人たちだと見下したりするのです。
 「読解力」とは、できる限り先入観や偏見なく情報を受け入れ、対象を認識し理解することです。対象がテキストであれば文意を理解し、行間を読むということですし、人間であれば相手の主張や立場を理解し相手の論理で考えるという、「思考の幅」を持つことです。自分の視点だけで完結している〝読解力不足〟の人が、残念ながら増えているように思います。

■なぜコロナ陰謀論にハマるのか? 
 今回の新型コロナのパンデミックによって、「読解力」の欠如が図らずも顕在化したのではないでしょうか?  
 ウイルスの脅威をどう評価し、受け止めるのか?  ツイッターなどのSNS情報を鵜呑みにして、「水をたくさん飲めば感染しない」とか、「新型コロナは30度前後のぬるま湯で死滅する」とか、「トイレットペーパーがなくなる」など、根拠のないデマを信じてしまう人がいました。
 大事なことは、しっかりとした数字やデータに基づいて判断することでしょう。新型コロナウイルスの感染率はどれくらいなのか?  重症化率と致死率はどれくらいなのか……? 
 その意味でマスメディアの報道も、大いに偏りがあると言わざるを得ません。これらの客観的な数字やデータを示すどころか、たんに1日の感染者数をひたすら取り上げるだけ。感染者数も単純な累計数だけでなく、すでに完治している人の数にも注目するべきです。
 実は日本のデータはPCR検査が他国に比べて少ないため、疫学的に有効なデータが得られないという意見もあります。分母が少ないので正確な感染率や重症化率などもわからないというのです。
 ならば日本に比べてPCR検査が格段に進んでいる諸外国のデータはどうなのか?  2020年12月に発表されたアメリカのワシントン大学の調査によると、新型コロナで入院した患者(3641人、平均年齢69.03歳)と、インフルエンザで入院した患者(1万2676人、平均年齢70.25歳)を比較したところ、致死率はインフルエンザが5.3%に対して、新型コロナ患者の方は18.6%だったそうです。
 また、新型コロナ患者はインフルエンザ患者よりも、人工呼吸器などによる呼吸管理が必要になるケースが約4倍、集中治療室に入るリスクも2.4倍という数字が出ています。
 同時期でのフランス医学保健研究所の研究発表によると、新型コロナ患者の入院数の最多記録は、2018~2019年のインフルエンザ患者数のピークの2倍以上であり、致死率は約3倍に達したというデータが示されています。
 この他にもおそらくいくつかの有効なデータが示されていると思いますが、いずれにしても、新型コロナはインフルエンザに比べ致死率が明らかに高い。コロナ陰謀論者がしきりに主張する、「コロナは虚構だ」とか「風邪と同じ」というのが、科学的な根拠のない、強引な主張だということがわかるでしょう。これらのデータや調査結果を認識した上で、新型コロナのリスクを自分なりに冷静に受け止め、対処することが必要です。
 ところが不安を煽るメディアの報道を信じて、過度に神経質になる人がいます。一方、エビデンスにも基づいていない「コロナ陰謀論」にハマってしまう人も少なくありません。
 客観的な情報に触れたとしても、それを自己流に都合のいいように編集してしまう。テキストの中から自分にとって有益、有効なものを拾い上げ、それ以外はノイズとして捨ててしまう。そういう作業を行っている人が、残念ながら増えているように感じます。

■簡単な文章さえ理解できない学生
 少し前に、国立情報学研究所教授で、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクタを務める新井紀子さんが、『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)という本を書いて話題になりました。
 新井さんは自ら作った基礎的読解力調査テスト(RST)を全国の中高生を対象に行い、いまの中学生の読解力が低下していることに衝撃を受けます。簡単な文章でさえ、正確にその意を汲み取ることができない学生が予想以上に多かったのです。
 最近の中高生の語彙の貧困を嘆く人もいるかもしれません。しかし、自分の都合のいいように文章を編集し、勝手に解釈するという点では、実のところ多くの大人たちも、語彙の貧困な中高生と同じ作業をしている可能性があるのです。
佐藤 優 :作家・元外務省主任分析官