110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

音楽と生活(兼常清佐随筆集)

 この本は先日、手持ちの本を整理していたら出てきた、読んでみるとやはり面白いので、再び読んでみた。
 基本的には、音楽を中心に短歌や詩など芸術の分野に関する随筆が集められている。
 一見、モダニズムにかぶれた、合理主義者の様な気がしたが、読み進めていくと、意外にも日本人たる顔がところどころに顔を出す。
 私は野草の花は大変好きです。・・・桔梗や女郎花や松虫草のような美しい花が到る処に私共を歓迎します。見たところ誠に平和な自然です。ところがこの花は弱いもので、人間との闘争に到底勝味のない事がこの頃わかりました。オイワケの里の花はもう間もなく滅亡するでしょう。
 その一つの原因は人間が草花を愛するからです。人は草花を見ると途端に取りたくなるものらしいようです。道ばたの草花の美しい色や形は人にまず最初に綺麗なという感じを起させます。その感じを動作にあらわしたのがその花をちぎるという事です。・・・この瞬間が大切です。人はほとんど反射的に花をちぎります。その時根も一気に抜けます。・・・
 綺麗なものを所有したいという一瞬の行動が花を絶滅に向かわせているのではないかと指摘している「視点」が非常に気になった。

 これは、先日読んだ「社会学入門(見田宗介著)」に、
 ・・・日本でも江戸時代まではたとえ幼い子供であっても、花をむしることは止められていた。・・・
 と記されている事を思い出した。

 全ての、古いものが「悪い」ものでもなく、また「良い」ものでもないが、確実に失われたものがあることに気づいた。