110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

影の現象学(河合隼雄著)

 心理学に関する本を読みはじめたのは最近のことだが、河合氏の著作に手を出したのは、残念な事ながら訃報に接したからだ。
 ユング心理学の国内での第一人者ということであり、本書では、人間がその意識下に追いやった「影」の部分について追求していく、これは、1976年の作品。
 人間が、意識下に追いやった「影」の部分も普段はおとなしくしているのだが、それが、なんらかの機会に肥大して行き、実際の意識をも飲み込んでしまうことさえあると、警告をしている。
 内容は非常に面白い。
 本作の中で、その後「戦場のメリークリスマス」という映画の原作になる、ローレンス・ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて(A Bar of Shadow)』を取り上げて、その心理的な分析を簡単にだが試みている。
 Wikipediaで「戦場の・・・」を見ると、その心理面についてはほぼ何も語られていないので、本書の巻末に近いところにある、この解説部分は「なるほど」思ってしまう(最初から読むとさらにそう思える)。

 さて、本書は、御多分にもれず古本で手に入れた、とてもきれいな状態であったが、ただ一つだけ、前の読者がマーカーを引いていた。
 今回は「影」がテーマだから、誰とも知れない、その人の指し示した部分を引用してみよう。
 ・・・人々は自分の考え及ばないことはこの世に存在しないと確信する。・・・
 しかし、その考えの及ばない「影(こと)」は存在するのだ・・・という趣旨の文脈の中で、何故ここに印を付けたのだろう?
 などと、考えをめぐらせるのは、「古本」ならではことだろう。