110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

クオリア入門(茂木健一郎著)

 本作は、1999年に講談社から出版された「心が脳を感じるとき」が、解題されて、ちくま学芸文庫として出版されたもの。
 茂木氏は有名なので、この本を読まれた方も多いことでしょう。

 身体論に興味がある者としては、いつかは茂木氏の著作は読まないといけないだろうと思っていたところ、たまたま、古本で手に入ったので読んでみた。

 冒頭の「私たちの心のすべては、私たちの脳のニューロンの発火に伴って起こる『脳内現象』にすぎない。」で、少し身構えた(自然科学的な)分析で、論議をすすめてくるのかと思ったのだ。
 その後、「クオリア」という言葉が出てきて、更に「ポインタ」という言葉が出てくる。
 そして、議論が心の問題になり、話の論点が「ポインタ」という言葉の方に重点が傾いていき、最後に、今まで「ポインタ」といった言葉が、哲学用語で言うところの「志向性」だと示される。
 ここで、少しリラックスできたのだ、もし、こういう展開でなければ、ここで、その「ポインタ」というのは、どういう風に発生するのか?という問題定義をしていたことだろう。
 (ただし、「志向性」と言葉を変えても、その問題は残ると思うが)

 もとより、心の問題は難しいと思う、当然、本書の用語にある「ハードプロブレム」だと思う。
 今まで、この問題に取り組んでいた、哲学者や心理学者などは、脳はブラックボックスとして取り扱うしかなかった、すなわち、仮説の検証と言う面では難しい部分があったと思う。
 しかし、心の問題が、自然科学的に検証される可能性が出てきたので、今までと違うとり組みかたができるようになるのではないかと思う。

 本作では、この「志向性」という言葉は、ブレンターノの著作(哲学)から採用しているが、少し拡張して考えれば、観念論系の哲学やフッサールなどの現象学の系統も、思考の射程に入れても良いのでは無いかと思った。
 また、このような面から、哲学や思想系に注目する人が増えると嬉しい。

 茂木氏は自然科学の一辺倒の人かと偏見を持っていたが、それが氷解した。