110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

死に急ぐ鯨たち(安部公房著)

 本書は昭和61年新潮社刊行のもの、私は、新潮文庫版で読む。

 本書は、著者のエッセイと対談で構成されている、ぱっと開いたときに「実存主義」という言葉が目に付いたので手にしたわけだが、この部分以外で哲学や哲学者の名前は出てこないのだ(笑)。
 しかし、氏の言葉の中に、哲学的な要素(生前なら自然科学的、論理的な部分と反論されそうだが)を見出して面白く読むことが出来た。

 思索は言葉に制約されている、その言葉の中でしか思索はできないという趣旨の著者の考えに共感を持ったりしたのだ。
 そして、スプーン曲げの少年を題材に小説を執筆するにあたり、生産地(新潟県燕市)や流通経路を調べるという(一見脈絡の無い部分に対して)取材・調査をするところに、興味を持った。
 それは、著者の小説の中の、虚構的な世界を、(小説の中でだが)実在化させるために必要な「細部」なのであろうか?

 そんなことを考えたのだ。

 そしてもうひとつ、山本夏彦も同様な指摘をしたが、「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」(原爆死没者慰霊碑)という(その)言葉について、興味深い意見を述べている。