110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

人間の学としての倫理学(和辻哲郎著)

 本書は、昭和9年に岩波全書として刊行されたもの、私は、岩波文庫版で読む。

 本書の様に刊行後数十年を経過している著作を評価するのは意外と難しい。
 その後の、本著者の思想的変遷、それも戦時中の立場などが、1つの評価基準として割り込んでくるのだ、それは、ハイデッガーなどにも顕著なように思う。
 
 しかし、そういう複雑な要素を考慮せずに本書を読んでみると、倫理学は人間の学である、すなわち「人の間の学問」であると位置づけて考察する、著者の考え方が良く分かる。
 それゆえに、人間でなく、人という主体から考察された、いわゆる観念論的な考察では無理があり、また、人の間の学問でなく、人と物との間を考察する唯物論にも、無理があるとする(マルクス・・・史的唯物論は評価するも、問題ありとする)。
 本書は、この流れを説いていくのだが、その手際は、とても分かりやすく優れていると思う。
 だから、観念論でもなく、唯物論でもなく、現象学でもなくという手順から、現象学から派生した存在論としてのハイデッガー現象学学・解釈学)を評価する。
 しかし、その存在論も究極的には物「有」の問題に直面し、頓挫するということになる。
 それでは、その解決法はというと「西田哲学」にあるのではないかという結論になるようだ。

 西田哲学の評価をする知識を、私は持ち合わせていないのだが、西田哲学というキーワードよりも、人の関係という風に読み替えて、構造主義という言葉を思い浮かべた。
 それは、著者からすると否定的なものかもしれないが、人の関係を捉えるということでは、理論的な系統上にあるように思えるのだ。
 しかし、逆に、構造主義では、人間の主観を捨象している部分もあるだろうが・・・

 そういう意味で行くと、主観・客観や心・身という人を2つの要素に分けること、そして、その前提条件の上で考察することの難しさを改めて感じてしまうことになるのだ。