110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

翻訳の思想(柳父章著)

 本書は1977年平凡社刊行のもの、私はちくま学芸文庫版で読む。

 最近の古本の購入の傾向として、講談社学術文庫やちくま学術文庫などの古いものが安価に棚に並ぶことがあり、その瞬間、先入観を持たずに買っておくということをやっている。

 それが、あとで読んでみると失望したり、余りにも時流を意識しすぎて、現在読むのがつらいものもあったりするのだが、本書は、出色の作品であった。

 副題に『「自然」とNATURE』とあるのだが、「自然」という日本語と(文書や思想として)引用された「NATURE」との意味の違いを日本語の文章の中で検討し、そのたった一語の意味(観念)の違いが、全体の文章の意味における差異や不透明性を結果として引き起こしてしまうという、そういう驚くべき状況を私たちに体験させてくれる本である。

 本書をもし古本屋で安価に入手できるようなら一読して欲しい、そして、「自然」と「nature」の差異はどこにあるのか、また応用問題的として「自然主義」と「naturalisme」の差異がどこで出てきたのか等々本書で扱われた問題点を考えてみるのもよいと思う。

 そして、翻訳という形態で明治以後の文化を形成した日本という国の宿命(言いすぎかな?)を考えてみるのもよいだろう。

 最近の日本語の紋切形の氾濫に疑問を持っていたのであるが、本書を読んで、私の考え方も単なる論理性の無い、すなわち愚痴に過ぎないことを知ったのだった。