110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

スーパーコンピューターを20万円で創る(伊藤智義著)

 本書は集英社新書版。

 1989年当時のスーパーコンピュータの指標とされた100メガフロップス(1秒間に1億回以上の演算)を達成したコンピュータをわずか20万円で開発・作成したというプロジェクトがわが国で起った。
 いわゆるガレージプロジェクトとも言えるのだが、それは、東大の駒場キャンパスに集まった数名の才能の賜物と言えるだろう、目的があり、それを実現するスキルを持つ人材が上手く集まったということだ。
 本書は、その取り組みの中で、ハードウェアの設計・製作を担当した著者が、当時のことを振り返りながら記した記録の書であり、この現在大学教授である著者の一風代わった経歴を見ることができて大変面白い作品である。
 本書は手にしてから、わき目も振らずに読んだ内容がとても面白かったからだが、読後にはいろいろと考えることも多かった。

 数年前、事業仕分けで世界一のスーパーコンピューター製作プロジェクトが槍玉にあがった、「何故一番にならなければいけないのか?」、本書は、この問題にひとつの回答を与えてくれる、それは、一番でなくても良いし、一番でなければならないということだ。

 それは、多分時代性もあるのかもしれない。
 現在、私たちの日常利用しているパソコンやゲーム機が当時のスーパーコンピューターに匹敵する性能を持っているのだ、だから、やろうと思えば、パソコンで、宇宙シミュレーションやタンパク質(ヒトゲノム)シミュレーションなどできるのだ。
 でもそれを行わないのは・・・・?

 確かに、20世紀後半のこのプロジェクトの時期と現在の状況は異なっているのだが、それでもなお、このようなプロジェクトに似たことは現在も起りえるのだろうか?・・・・そちらの方が心配の種である。