110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

文科系の技術読本(森谷正規著)

 本書は1983年筑摩書房より「ちくまセミナー6」として刊行されたもの、私はちくま文庫版(1987年)で読む。

 本書はこういう書き出しになっている「いま、世界不況は相当に厳しいようです。すでに経済低迷の時代が長くつづき、さき行きの明るい見通しもなかなかもてそうにない。その不況が他人事でなく、日本に波及してきました。直接の原因は、周知のように輸出の伸び悩み、どころか減少傾向さえ出てきたことにあります。つくづく、日本経済は輸出依存体質なのだとあらためて思い知らされます。いっぽう、内需も思わしくない。金はあるはずだけど、消費者は何しろ買ってくれないのです。すでに必要なものはほとんど揃って、家の中に”物”は溢れており、買っても、置くスペースもない。それに、どうしても買いたいという魅力ある商品がなかなか生まれないのです。」
 ・・・大同小異という感じでしょうか、なにやら、リーマンショック後の状況でこの文章を読めば余り違和感がなかったかもしれません、現状は少し違和感があります。

 この後に続いて、この不況下では学生の就職難だという文章が続きます、丁度私が新卒で就職した時期なのでイメージは鮮明です。
 しかし、現在と大きく違うところが1点、技術系(理工系)は青田刈り、文系は本当に職が無いという状況なのでした。
 そこが違ったのですね、現在は理工系の進学者も少ないでしょうし、多分全体的に就職難なのでしょう(気になるのは、当時との大学進学率の差ですが、まぁ、そんなことは目をつぶりましょう)。

 そういうことで、本書は時代性を背景に現在では余り役に立たない本とも言えるのですが、歴史的・文化的な観点から見ると興味ある点がいくつかあります。

 そのひとつに「技術屋を大事にしないと経済がおかしくなる」という一章があり、当時のイギリスと比較して、理工系の大学卒業者(就学者)は、ほぼ同じ比率なのに日本のほうが圧倒的に工学系の比率が高い、すなわち、科学は抽象的な理屈で、工学は実学であるので経済への波及効果が高い・・・ということを指摘しているのです(イギリスの凋落はご存知のとおりですね)。
 なるほど、現在の状況はご存知でしょう、理工系の大学進学者も減少し、国内の製造業も低迷しています、理工系の卒業者も、製造業ではなくもっと給料の良い業種に就職しています。
 
 そう、わが日本もイギリス同様、(特に製造業系は)凋落したと見てよさそうですね、再び、復活させるには、地道な努力で、特に工学系の人材を輩出し、(最近聞かなくなりましたが)3Kと揶揄された、製造業に就職し、さらにその裾野としての、中小製造業のまずは数的な増加が必要でしょう。
 現在の中国の羽振りをみていると、少し、絶望的な感じがしますが。

 本書を読んでいて、これが書かれた1980年代は、日本の明らかに優位だった時代です、不況だと言ってもまだまだ余裕があり、どこの国と比較しても日本は優位だという論調です、そして、当時はみなそう思いました。
 しかし「奢る平家・・・」ではありませんが、日本の製造業とともに20世紀体質が危機に瀕しています。
 私は政治家ではありませんが、もう一度国のグランドデザインを考え直した方が良いと思います。
 そして、話の種にしやすいという理由で製造業に将来を託してよいのか、良く検討することだと思います、現在国内に残っている製造業は(私見ですが)「奇跡的な努力」をしていると思います。

 デフレ企業の典型のユニクロが海外に進出するということは、デフレの神様にも国内は見放されたのではないか・・・と思っているのですよ。