甦る秋山真之その軍学的パラダイム(三浦康之著)
本書は、ウェッジ1996年刊行のもの。
まだ、ビジネスマンとしての自覚のあったころ、本書を入手して読んだ、この本はビジネス書なのだ。
ちょうど20世紀の終わりに掛けて、リストラとかリエンジニアリングという、日本国内では後ろ向きの戦略が華やかな頃、これではいけない、21世紀に向けて日本再生という目的はあったかどうかは、定かではないが、秋山真之という、海軍参謀に仮託して、企業参謀のあり方を問うという感じの本。
確かに、企業戦略と秋山真之の組み合わせについては、著者の軽妙な書きぶりで、なんとなく納得させられてしまいそうなのだが、いかんせんビジネス書はその当時の世相を反映してしまうという罠がある。
しかし、その一面この1996年ごろの企業戦略の対応と、2011年の対応は、驚くほど似ている、それは、JALという一流企業の先見であるのかもしれないが、穿った見方をすれば、驚くほど変化に乏しかったのか、逆説的に、そういう段階を通り過ぎてしまい、一見似ているようだが、別のゲームが開始されているのかもしれない。
ちなみに、本著者はJALに勤務して重責を担っていた経緯がある。
そして、本書でも、当時ANAについて国際線にまで業態拡大したことを批評しているが、現在、まさに急回復したとはいえ、JALは一度破綻したのだということを思うと、ここにある種の(平家物語的)感慨をおぼえるのだ。
それでは、本書は今となっては時代遅れなのか?
いや、そうではない、純粋に秋山真之の当時の言葉、戦略的な思想に触れることは、とても役に立つだろう。
そして、丁寧に、その戦略や戦術をビジネス向けに翻訳する著者の労苦を、ひとます留保して、秋山真之について、自分で考えれば良い。
実は、そのことを著者は願っていると思うのだ。
そういう意味で今度の再読は意味があったと思う。
感情的に「戦争=悪しきもの」や「戦争の親玉=東郷平八郎」という短絡の構図もありそうだが、内容を吟味せずに排除するのならば、なにか大事なことを見落とすような気もするのだ。