110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

芸人 その世界(永六輔著)

 本書は文藝春秋社1969年刊行のもの、私は岩波現代文庫(2005年初版)のもので読む。

 本書は、著述と言えるかどうかはあやしい、それは芸人と呼ばれた人たちの言葉を集めたものだからだ。
 そして、特に戦前の芸人と呼ばれた人々の生き方は、私の想像をはるかに超えるものがあるのだ。
 下手なフィクション(物語)よりも意外性があるからだ。
 その意外性のあるその言葉を集めるための仕掛けは、巻末にある圧倒的な参考資料リストであり、著者はこれだけの精進をしてこの一冊を著したというだけでもう脱帽である。
 このリストの中で私が読んだのはほんの数冊でしかなく、そのことだけでも芸能というジャンルの奥深さを知ることになった・・・ちなみに、立花隆が一冊の本を著すに5mの本を読むという言葉を思い出したしそれに匹敵する仕事である。
 しかしながら、著者はそういう古き芸人礼賛の姿勢をとっていない、それは、若いときにそういう人たちに接していたからにすぎないと言うのだ、それをさらりと言ってのけるところに、著者の(真)面目が伺えるのだ。
 
 本書では注目したい言葉があった、それは岩波現代文庫版のあとがきにある、ラジオからテレビに変わったことでの変化そこで失われたたものについて指摘しているとこころだ。
 それは文字や活字で伝えることと(ラジオ)とイメージを伝えること(テレビ)の差である。
 あまりにもイメージが先行する事で失われる物とは・・・!

 私も、ちまちまと活字を追いかける暮らし(古本読み)をここ何年もしているが、それでも、確かにイメージの方が刺激的だし短時間でおもしろさを味わうことができることは事実だ、しかし、何かは失っているのだろうと思う、それは、少しずつ自分の見方(脳みその構造)を買えてしまう物なのだろう、例えば刹那的な満足をもとめて、長期的な満足をもとめないとか、そんなことなのではないかと思うのだ。