110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

蝦蟇の油(黒沢明著)

 本書は岩波書店刊行のもの、副題に「自伝のようなもの」とあり著者のまさに自伝(未完だが)である。

 子供、学生、青年、社会人として映画の世界へ入った著者の歴史を読むことができる。
 そこには、著者固有のものなのかもしれないが、今の日本と違う世界がある、それは、いわゆる戦前、軍国主義というのではなく、現代のような画一化されていない世界がある。
 たとえば、試験でが答えが分からないので、多少ともわかる問題について自分の意見を書いて提出したところ、その意見を評価して「おまえには100点をやる」と生徒の前で言える先生がいる学校を、私塾のようなもの以外で考えられるだろうか?そして、自分の子供には試験問題を教える先生がいて、先生の子をつるしあげて問題を知り、それを皆で共有し良い点数をとるような生徒たちがいる学校(と先生)を想像できるだろうか?

 そんなことができた社会をあなたはどう評価するだろう?
 
 本書の最後に「羅生門」について「人間の性質の悲しい側面」を描写したものだと語り、そこで、自分自身を振り返って「正直に自分自身について書いているのだろうか?」と疑問を表明しそこで「筆を進めることが出来なく」なり本編は終了するのだ。
 これも一つのポーズだと(例えば、本業が忙しくなった言い訳とか)考えることもできるが、ありのままに著者の深い反省を認めてしまうのが素直で良いのかと思ったのだ。

 本書に挿入された写真の中で古い「お茶の水」のものがあったが、そののどかな風景に見入ってしまった。
 昔々の東京というのは風情があったのだなぁ!