110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

思想史の横顔(鈴木正著)

 本書は勁草書房1987年刊行のもの、なぜ本書を買って読んだのかは少し因縁めいた事情がある。
 少し前に取り上げた「東京下町古本屋三十年(青木正美著)」 の中で「地蔵になった男」というNHKのテレビ番組に取り上げられた人物宮沢芳重についての記述があった、すごい人が世の中にいたのだなと思ってBookOffへ行くと、奇しくもその宮沢氏と関係がある著者のこの本があったのだ、しかも、ぱらぱらとページをめくると「地蔵になった奇特人」という表題で一編がある。
 そう、この部分だけで買って読んだのだが、本書の実態は、戦争を通して変遷した思想についての著者の考察ということができそうだ。
 戦争時に生きていた人にとって、その戦争が何であったのかという問題は避けられないもので、忘れようにも忘れられないことだろう、しかし、その後現在に至る課程であの戦争は悪いものとして無理やりに、当事者をおいてきぼりにして忘れてしまう風潮がある。
 しかし、それで良いのだろうか?
 たとえ、悪いことだったとしても、歴史という時間的な連続性のなかで受け入れないといけないことはあるのではないか?
 そういう、当事者の一人としての問いかけが本書にはある。
 そして、本書では様々な人々の思想を渉猟しながら、人間の作りだす社会そして歴史について清濁(善悪)が発生してしまうものとして、それを受け入れながら、さらに考えていかねばならないのではないのか?
 と、そういう問いかけが聞こえてきたように思う。