110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

榎本武揚(安部公房著)

 本書は中央公論社1960年初版のもの、私のは1973年第14版であった。

 AMAZONでコメントを見るとこの著者にしては珍しい歴史小説と捉えた方が多いようだ。
 しかし、どの本だったか忘れたが最近読んだ本の中で、これが戦後の「転向」について書かれたものという評価をしているのを見て興味を持っていたのだ。
 先入観なく読んだが、本書で榎本武揚について語る(書く)のが旧憲兵であるというところから、期待は高まっていくのだ。
 すなわち、戦争を肯定した者が、敗戦により、かつての自分の行為を否定された人、彼はかつては幕府側についていたがその後新政府についた「榎本武揚」という人を通して、自己の行動を肯定しようと試みる。
 しかし、それには失敗してしまうのだ。
 何故、失敗したのか、それは、免罪符として期待した「榎本武揚」に裏切られたからだ。

 本書は、そういう戦後、転向という重いテーマで読んでも良いが、意外と、現代の世代間ギャップについて考える際の指標と考えてもよいかも知れない。

 なんやかやと、一読しながら考えたが、本書では具体的に「榎本武揚」な名前が出てくるが、実は、カフカなどのような抽象的で不条理的な世界観を著しているのではないかと思った。
 時代が変わって時代の景観は大きく変わるのだが、その内面の底の底は、やはりどろどろしているように思うな。