110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

モドリッチ

 サッカーファンにとっては常識だろう、でも、私は、W杯で彼を知った。
 日本のチームも結果的には良かったのだろうが、それ以上に過酷な条件を乗り越えていく人間がいることを知ったことは、自分の浅薄さを知ったことでもある。
 こういうことと年齢なんて関係ないね。
 日本語では(実質)死語になりつつある「英雄」という言葉が彼にはぴったりはまるね。
 記事は良くまとまっている、備忘録としよう。

苦しい時には必ずモドリッチがいる。 旧ユーゴ内戦を乗り越えた男の本性
7/14(土) 9:40配信 webスポルティーバ
イングランド戦でも味方を鼓舞し続けたクロアチア主将ルカ・モドリッチphoto by Fujita Masato
 7月11日、モスクワ・ルジニキスタジアム。ロシアW杯準決勝、クロアチアイングランドを延長戦の末に2-1で下し、同国史上初の決勝進出を果たしている。その中心にいたのが、ルカ・モドリッチレアル・マドリード)だった。
 後半38分の何気ないプレーに、モドリッチの非凡さが出ていた。右タッチライン沿いでボールをキープしながら、するすると前に運んでいく。サイドで幅と深みを同時に作り出すことで、中央でフリーになったマルセロ・ブロゾビッチへパス。さらに前で動き出したマリオ・マンジュキッチへパスがつながって、チームとしてシュートまで持ち込んでいる。
 おそらくモドリッチは、イングランドの左サイドでアシュリー・ヤングの足が止まりかけているのを見抜いたのだろう。その前後の時間帯は右サイドに活発に流れ、次々にチャンスを生み出していた。敵を手玉に取り、味方を生かす、利発さを感じさせるプレーメイキングだった。
モドリッチクロアチアにとって、とても重要な選手で、リズムを作り出せる。キャプテンとして人間性も持っているしね。バルサでレオ(リオネル・メッシ)と一緒にプレーするときも同じだが、とても誇らしい気分になるよ」
 クロアチア代表MFでバルセロナに所属するイヴァン・ラキティッチは、モドリッチについてそう語っている。ボールプレーのうまさだけだったら、ラキティッチモドリッチに匹敵する。しかし、プレーの渦を作り出す“深淵”においては敵わない。
モドリッチレアル・マドリードチャンピオンズリーグを3連覇しており、ロシアW杯ではクリスティアーノ・ロナウドもメッシも不発だった。2018年のバロンドールに最も近い」
そんな絶賛の声は日々、高まっている。
 では、痩身で小柄なMFの本性とは――。
 モドリッチは5、6歳の頃、1991年に起こった旧ユーゴスラビア紛争に巻き込まれている。激しい内戦で、モドリッチはゲリラに捕縛された祖父が殺されるのを、その目で見たという。
 その後、家族は村を出て、森を抜け、山を越え、町に落ち延びた。新しい家を探したが見つからず、難民が暮らすホテルに仮住まいするようになった。そこで難民の子供たちと、サッカーボールを蹴るようになった。
 少年の才能は際立っていた。やがて地元クラブでプレーするようになり、大成する。
「ルカは幼少期に、一番辛い時期を乗り越えた。だから、ピッチでも苦しい状況を好転させることができるのだ」
 そんな言い方をする関係者もいるが、モドリッチのプレーに悲壮感はない。
「避難した後も大変なことが起きているとは、実はわからなかった」と、モドリッチは当時を回顧している。両親が息子を、できる限り戦火を感じさせない環境に置こうとしたのだ。
 そしてモドリッチは、サッカープレーヤーとしての才能をひたすら純粋に伸ばすことができた。その天性のおかげで、絶対的な選手になった。故ヨハン・クライフは「ストリートが真のフットボーラーを生み出す」という持論の持ち主だったが、避難所でボールに集中する日々が、図らずも野生的な直感を鍛えたのかもしれない。
 それが冒頭に記したように、相手のどこが弱く、味方のどこが強いか、瞬時に見抜く異能と結びついている。薄っぺらなうまさではない。猛禽類的な苛烈さとでもいうのだろうか。優しそうな顔をしているが、芯は強い。
「どこと戦うにせよ、尊敬の念を失うべきではないと思う。(試合前に)イングランドのメディアは、自分たちをこき下ろし、あることないことを書き立てていた。自分たちが偉大なチームであることを証明する必要があった」
 準決勝後、モドリッチはそう洩らしている。延長戦に入る前、モドリッチ接触プレーや疲労で、ほぼ走れない状況になっていた。戦う気持ちだけで、勝負を決めるまでは立ち続け、延長後半に1点をリードすると、チームメイトに後を託すようにピッチを去った。
「我々は終盤が近づくにつれて、体が動くようになった。疲れているはずだったが、それを見せていない。誇り高い試合をした」
 モドリッチはそう言って、仲間たちの健闘をたたえている。しかし、その戦いを先導したのはキャプテンだった。
「敗因? 我々にはモドリッチがいなかった」
 そう語ったのは、決勝トーナメント1回戦で対戦したデンマークの選手だったか。苦しいとき、そこにはモドリッチが必ずいた。それがクロアチアの強さだ。
 クロアチアは決勝トーナメントに入ってから、3試合連続で延長戦を戦っている。もはや満身創痍に近い。新しいエース候補だったFWニコラ・カリニッチはナイジェリア戦で交代出場を拒み、代表から外れている。決勝のフランス戦は、日程的にもかなり不利(1日休養が少ない)な条件に置かれている。
 それでも、彼らにはモドリッチがいる。
バロンドール? 自分の願いは、クロアチアの選手としてトロフィーを掲げることだけだよ。優勝したら、選手みんなで髪を染めることになっているんだ」
 そう語るモドリッチは、子供の頃にボールを蹴っていた純粋さを失っていないように見えた。それこそが彼の本性であるのかもしれない。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki