110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

アレクサンドロス大王東征記 付インド誌(下巻、アッリアノス著)

 やっと、読み終わりました。
 「ローマ人の物語」にも名前の出てくる「アレクサンドロス大王」が知りたかったので読み始めて、いろいろと考えさせられました。
 彼は、バビュロンで病死するのですが、タイミング的には「武力で領土を拡大した」ところで終わったわけです。
 ここから、本当の意味での「統治」が始まるのですが、訳注にもあるように、死後になると一度は服従を誓った諸国が反旗を翻してきた例も多数あるようです。
 それも、当然うなずけるのは、どの国も「アレクサンドロス大王」その人を「恐れていた」という事だからです。
 また、最も遠いところで「インド」まで遠征した事により、完全に武力での支配範囲を超えてしまったであろう事が予想されます。これは、部下である「コイノス」の諫言により、インド領域での更なる戦域拡大を思いとどまらせました。
 しかし、帰国途中に、何回も食糧難に陥り、また毒蛇や蠍などの恐怖そして犠牲者の現出に兵士がおびえた事からも、多分、帰国後は次の派兵は難しいと考えざるを得ません。
 また、アレクサンドロス大王はいつ逆鱗に触れて「虐殺」されてもおかしくない人と考えられたのではないかと思います。(カエサルなどは「以前の敵を自国に取り込んでしまう」という違いがある。)
 この「恐怖」は、敵だけでなく、味方も同様に恐れていたのではないでしょうか?
 この本を読んでいると「織田信長」という名前が思い浮かびました。ただし、信長の政治手腕の方がアレクサンドロスより上のような気もしますが。
 「アレクサンドロス大王」は偉大なイノベーターであることは間違いなく、あの「ローマ帝国」もなしえなかった広大な領域を誇ったのですが、それを維持する機能(人材、システム)は無く、死後はもろくも崩れ去ったという感じがします。

 さて、この本を読んでいて一番面白かったのは、インド的な思想の伺える以下の文章です。
 伝えられるところによるとアレクサンドロスは、(インドの)哲学者たちがいつも講演を設ける青天井の草っ原で、彼らの一団に行き逢ったことがあったが、その彼らがアレクサンドロスとその軍勢を見て、仕草で表わしたことといえば、自分たちが今たっている地面を、足でとんとんと踏んでみせたことだけだった。アレクサンドロスが通訳を介して、彼らのその仕草はいったいどういう意味かと尋ねると、相手はこう答えたという。「アレクサンドロス王よ、人間誰しもわれわれが今たっているこれっぽっちの土地を持てるだけのことです。貴方が格別じっとしてはいられない、しかも自負心の強い御性分で、我も心身を労すれば他人(ひと)にも苦労を強いながら、わざわざ御自分の国からこんなにも遠い土地にまで攻め進んでこられたという、その一事を別にすれば、貴方とて他の人とおなじ、ただの人間にすぎません。事実貴方も遠からず死ねば、肉体が葬られるに足るだけの、わずかな土地しかお持ちにはなれないでしょうに」。
 
 ・・・全て、総括されるような文章ですね。