110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

わが住む村(山川菊栄著)

 「武家の女性」を読んでお気に入りの山川さんの著作。
 今回は、山川さんのが当時住んでいた神奈川県鎌倉郡村岡村(現在の藤沢市)の様子を伝える。
 毎回、とてもよい気分にさせてくれる文章だ。
 今回はその中で、こんなところが気に入った、
 
 大正八年のある日、小塚本家の熊吉氏を、兵隊帰りの分家の青年芳太郎氏がたずねてきました。そして何とかしてあの山にトンネルをあけたい、そうすれば耕地への往来が楽になって能率が何倍にもなるからというのでした。もとより金はなく、身体一つがもとでの百姓のことで、素手で山の土手っ腹に穴をあけようという無鉄砲な望みです。熊吉氏はできるものなら結構だからやってみろということになり、同部落の地主石井家と共に金策に当たりました。村人は呆れ返るばかり、熱心に協力を申し出たのが、小塚菊蔵、同政治、同政吉、彦坂藤吉の四氏だけでした。
 ・・・・五人の同志は農閑期を利用して仕事にとりかかりました。入り口のところは山をこちら側と向う側と両方から切り下げて掘り進むのですが、一日五人かかって一尺進まない程度、掘り崩した土を片つけるのに夜十時までかかり、切り下げだけに一年かかりました。
 ・・・始めてから五年目、ようやくポッカリ小さな穴があきました。むこうから薄い光線がさすではありませんか。
 「ホントかよう」。
 シャベルを捨て、鶴嘴を投げて走り寄った五人の同志は、相抱いて咽び泣くばかりでした。
 ・・・

 良い話ですね。