110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

知覚の呪縛(渡辺哲夫著)

 最近は古本屋が公然と存在している、歩いていると「BookOff」のような店舗があり、気持ちに余裕があれば覗いてしまう。
 昨日の歩きもそうで、そこで見つけたのが本書だ。

 内容は、「精神分裂症」の患者との「対話(可能であるならばだが?)」を踏まえて、その状況を論理的、哲学的に捉えるというもので、少し読みは決めると停まらない本であった。
(実際は、考えながら読んだので休みながらだが興味が途切れる事はなかった)

 この本で触れられている「S」さんという患者は、まるで別の世界に「存在」しながら、体(実体)がこの世に存在してしまった(送り込まれた)ような状況にいると認識している。
 そして、何故か、今「知覚」しているものは「偽(ニセ)」であると分かるとする。
 「S」さんは、「オトチ」という本来生きるべき世界に帰りたいと要望する。
 この原因が、「S」さんが、何らかの原因で、周りの世界が「喪失」されたことを除くと、少なくとも私もこういう「理想の世界」への逃避の願望はある。
 そして、そういう世界が(私的には「形而上的」な世界)、仮想的に存在できる社会になってきている様にも思われる。
 現代社会は「精神分裂症」的な社会だと書かれたものを読んだ記憶があるが、その様な「兆候」はあるのではないか?
 たかが「言葉」なのだがその累積の上には「裂目」が出来てくる事があるのだろう。
 そして、それは普段はなんでもないことなのだろうが、隙間隙間に、本書の「S」さんの言葉で行くと「マゴウコトナク」・・・「瓜二つ」に侵入してくるのかもしれない。
 ご用心・・・

 本書を読んでいると、以前読んだ市村弘正著「名づけの精神史」に収められた「精神の現在形」が本書を参照している事が分かった。
 この様な興味ある取り組みをしていた時代が、ほんの少し前にあったという事は(遅まきながら)良い発見であった。