110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

原初生命体としての人間(野口三千三著)

 本書は1972年に刊行された、改訂版を現在は岩波現代文庫で読むことができる。
 本書は、岩波現代文庫では、緑色(社会)のカテゴリーに入っている、しかし、読んで行くと、哲学。思想系である、青色(学術)でも良いような気がする。
 
 野口三千三については、野口体操という言葉を御存じの方もいるだろう、本書はその体操の基本的な考え方について著している。
 本書を読んで行くと、考えさせられる、すなわち、表題のように、人間も「原初生命体」を継承した部分があり、この感覚を呼び覚ますというような内容にゆきつく。
 また、人間は、個体ではなく、どちらかというと、液体に近いものだとも書いてある。
 哲学的な観点から、身体論を考える上で、これは蔑ろにできない観点を提供している。
 今までは、心身が分かれていた、心身二元論から、心身が一体となった、一元論を元に理論を展開していたが、そこには、完全に分離されてじはいないが、心や精神といったものが存在する。
 ところが、本書では、脳も皮膚の一部というように、機能的にも統合されて考えられている。

 また、意識そのものも、丸山圭三郎さんの「言分け」に示される、言葉による区別ではなく、言葉にならない、端的に言えば、身体(からだ)自体の発する「イメージを感じる」という事を、目的としている。
 これは、哲学者から見ると逆転現象と見えるのでは無いか?
 すなわち、身体ありきの考えのようなのだ。

 しかし、良く考えてみると、哲学者の理論は、ある意味合理的だが、その底にある、理性なり、意識なりが、理想的で、すなわち恒常的である保証はないではないか。
 もっと、下世話な話をすれば、酒飲んで酔っ払ったら、そういうものがふっ飛んでしまうような、脆く、一般的な意識だけで動いていない存在が、人間だということだとも言える。
 そんなことを考えると、野口氏の、現実感が身に染みてくる。
 
 そして、外側(外見)だけを感じとるだけではなく、もっと内側、たとえば、内蔵や筋肉の、普段、見逃してしまうような動きに配慮するということも大事な事だと思う。