110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

唯脳論(養老猛司著)

 身体論を考えていくと、ひとつは哲学的なアプローチであり、もぅひとつは、生理学的なもしくは自然科学的なアプローチがあると思う、養老氏はこの後者の立場からこの問題に取り組んでいる。
 そして、本書を読もうと思ったのは、茂木健一郎氏が、養老氏の影響を受けているということから、遡って読んだ。
 本書は、現在ちくま学術文庫で読めるはずだが、私は、古本で青土社版を手に入れた。

 さて、読み始めると、本書はどこにポイントを置いているのかがよくわからなかった、それは、生理学的なアプローチを押し勧めて、哲学的な側面は否定しているような文章がある様に見えて、論点が哲学的なところに戻ってきたりするからで、そもそも「唯脳論」とはなんなのか、ある意味「観念論」の一種では無いのかと言うように、いわゆる奇をてらったネーミングではないのかとも思ってしまった。
 それは、生理学的な部分に対する、私の理解不足もあるのと思う。

 しかし、その中で、一番興味を引いたのが、最後の部分、脳と身体とを対比し、脳は身体を支配すると定義した上で、現在は、脳に支配され、脳により社会が作られているとする、そして、現在の人間が何か住みにくいと感じる原因は、そもそも身体を支配する「脳」という器官が作成した社会が、人間の、その身体を支配(拘束)するからだという考え方だ。
 本書を読んでいて、唯脳論実存主義ではないかと考えたこともあるが、これも否定されてしまった。
 確かに、ハイデッガーの考え方では、現在のヒューマニズムによる人間疎外という問題が定義されていたが、唯脳論では、その自然として発生した人間の脳が、人間疎外を引き起こす原因となるのだ。
 すなわち、自然をコントロールされる人類が、その自然の一部であり、自分の器官である脳に支配されるという、なにやら、複雑な因果に支配されている事を示しているようだ。
 その対抗手段とは身体性の優位性を取り戻すことであるようだ。