110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

敗北の二十世紀(市村弘正著)

 本書は1998年世織書房から出版されたものを、増補して、ちくま学芸文庫として刊行されたもの。

 市村氏の著作は、私にとっては信頼して読むことができるもので、このように文庫本化されるのはありがたい。
 実際にお読みになるとわかるが、市村氏の思想や文体が好みでない方もいるかもしれない、あくまで私見だが、非常に繊細で、そして、どちらかというと悲観的なところがある、実は、そこが、私の好きなところだ。
 本書も比較的薄い本であり、市村氏も書評だとしているのだが、参考文献を見ると、驚く程の本が挙げられている、この比較的短い各章にどれほどの時間・労力が投入されているのだろう。
 だから、読む方はその分、文章の間に何があるのかを紐解いていく作業が必要になる、残念ながら、私はまだそこまでには至らないが・・・

 本作「敗北の二十世紀」は、第二時世界大戦をひとつの境とした、時代考証だと思う。
 確かに、戦争には勝者・敗者は存在したが、そのそれぞれとも失ったものがあり、それが「敗北」という言葉に象徴されていると思われる。
 本書では、その敗北への取組に付いて、単なる忘却(人間は都合の悪い事を忘れようとする)ではなく、その事件(事象)を「終結」させることで、それがどんなに悲惨な状況になろうと、「始まり」につながるという事を訴えている様に思う。
 それは、とても厳しい視点だ。

 私は、なんとなく二十世紀に生まれ、なんとなく二十一世紀に足を踏み入れてしまった。
 もし、「何か」を失っているのならば、それを取り戻すことはできるのだろうか?