110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

移動論(野沢啓著)

 これは1998年思潮社刊行のもの。

 本書は、詩作者の視点からの当時の時評という内容。
 しかし、ハイデッガーなどの哲学的視点・思想があちこちに見えて面白かった、ある意味、詩も思想的な側面を持っているのだということに気づいたことが収穫であった。
 「移動」とは何か、それは、身体の移動ではなく、観念(意識)の移動、本書にも現れる「人はどこから来て、どこへ行くのだろう」という事を中心に、「恋愛」「他者」「性」「相互承認」「内面」「転生」「別れ」というような各章のキーワードをもとに、話が進む。
 詩という視点から論点が進むので、中心はテキストに関するものになる。
 それでは、本書でその「移動」なるものの回答は得られるのかというと、既に、お気づきのように、そのような回答が無いことを、再び確認することになる。
 そして、自分があるのか無いのか、宙吊りの状態で、いや、本書にもある「漂流」の状態で、ある時は、陸地を見つけて安堵したり、木切れにつかまっておびえたりしながら、あてどもなく(人生を)彷徨うことに思いをめぐらすことになる。

 回答が無い問題だからこそ考えてしまうという矛盾について、人(私)の「業」のようなものを感じてしまう。

 本書は、自分としてはなじみの古本屋で手に入れた、BOOKOFFなどのチェーン店は、たまに、本来は高価な本が安く売っていたりするという、意外性でよく覗くことになるが、その反面、街の(小さな)古本屋は、その店ごとの品揃えの特徴がある、本書は、そういう小さな古本屋で手に入れた。
 野沢啓という著者は全然知らなかった、ただ、この著書名と、この古本屋だから、という安易な理由で本を買うこともあるのだ。
 
 さらに、脱線するが、私のなじみの本屋とは、歩ける距離のことなので、自宅を中心に50kmくらいはある。