110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

知性はいつ生まれたか(ウィリアム・カルヴェイン著)

 本書は、少し前に紹介した「サイエンス・マスターズ(草思社)」の第8巻目、1997年間刊行のもの。

 脳の構造の簡単な概論は、前回取り上げた「脳が心を生みだすとき」を読んだで、おぼろげながら、人間の脳は「化学コンピュータ」ということに妙に感慨を持ったが、本書では、実際の脳細胞が、目などの感覚器官からの刺激をどのように認識するのかなどという、細かい部分の機能モデルを紹介している。
 特に「ダーウィン的プロセス」という、脳細胞が、競合しつつ存在することで、様々な人間の認識能力が開発・発展していくという様な考え方を示している。

 脳の認識は、ただひとつの対象を持つのではなく、類似したもの、関係した脳細胞の集合が、それぞれの状況により個別に「発火(反応)」し、その累積量がある閾値を超えると、認識として浮かび上がるということのようだ。
 すなわち、頭の中で、様々な脳細胞の、多数決(微妙に違う感じだが・・・)で勝残ったものが、意識に浮上するということのようだ。
 何か、非常に冗長なシステムのようだが、それが、他の、余り関係の無いと思われるような認識を持つ脳細胞とも、比較的簡単に連携を取ることができるという、脳の柔軟性を与えているのだろう。

 さて、本書の著者は、余り自然科学的でない思想はお好きでないようで、多少、哲学的な考え方(今世紀では古い考え方・・・かな)の、私にとっては文句はいいたいところだが、全体的には面白かった。
 また、人工知能の開発可能性については肯定的で、例えば、人間よりも高度な能力を持つ、人工知能が発生した場合の、秩序・制御についての警告を鳴らしている。
 (自分に近い種に対して一番攻撃的になる。一番利害が対立するから。)

 人類は、その好奇心により、文明を進化させたわけで、今後もそれにより、利点、不利点は生じるが、その状況を乗り越えていかなければならない・・・という様な趣旨だ。

 その姿勢に対しては、やはり慎重に考えていかなければならないと思う。

 それにしても、脳の中では、いろいろの機能分化した脳細胞が、ちょうどクリスマスのイルミネーションの様に、あちらこちらと「発火」しているのを想像すると、何か、面白いものを感じてしまう。