110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

歴史を精神分析する(D.E.スタナード著)

 本書は1986年岩波書店刊行のもの。
 
 心理歴史学フロイト精神分析学を歴史的自称の解釈に利用したもの)を、批判するという趣旨のもの(フロイトの「モーセ一神教」も、その心理歴史学の一例なのだろうか・・・などと思う)。
 確かに、精神分析に関して疑問・批判を寄せる人もいるので、そういう面で興味を持った。
 
 ここでは、徹底的に精神分析の非科学性の要件をとりあげ、「心理歴史学」に引導を渡すという論調になっている。
 私も、「そうなのか」と思って読了して、解説(訳者の南博氏)を読むと、本書の論調が偏向していると、批判している。
 「なるほど」・・・とさらに手のひらを返すように納得をしてしまった。

 それほど、人間の心理を扱うのは難しいようだ、特に「言葉」というものは、物質的な因果関係では説明が難しいものではなかろうかと思う。
 例えば、ここに、それらしい文章を書いている「私」を構成している、それぞれの分子をモニターしても、脳内のある部分の活性化などは分かるだろうが、それが、どのような「言葉」を並べるかを予想するのは難しいのではないか?
 「言葉」はあくまで、非常に局地的な決め事に過ぎない、それが、その場所、その時点で意味を持つのだ。
 これは、奇跡に近いことだ。

 私的な直感だが、自由というようなものは無いのだと思う、人間は、その物質の(確率的な)因果性の中に囚われていると思う。
 しかし、その(本来の)因果性を理解することはできないので、自ら、自分の意思だと信じて、この世界に対して企投(頽落)するのではないだろうか?
 だから、その矛盾を埋めるために、理屈でわかることに執着するのだろう。

 そのような人間心理について、未だ解明されずにいるところがあるということは、少し幸せなことでもあるように思う。