110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

「戦前」という時代(山本夏彦著)

 本書は、昭和62年単行本として刊行されたもの、私は文春文庫版で読む。

 いくつかの文章があるが、やはり表題の「戦前」という時代について興味を持つ。
 何故か判らぬことながら、戦前は何か暗いもの、「語りたくない」ものと、短絡的に思い込んでしまっていることに気づく。
 しかし、本書では「そんなことはない」とそういう先入観を払拭しようとする試みなのだ。
 第二次世界大戦中、本当に食糧に困ったのは終戦直前の数年であり、戦時中、常に欠乏していたのではないと説く。
 そういえば、ある人の父親も戦争中、そして戦後も困ったことはなかったという話をしていたし、井上ひさし氏なども、それほど緊迫した生活を送っていなかったように記していたように記憶している。
 ただし、空襲で生死の際を体験した人もいるので、ひとつの視点だけで、歴史を断定することはできないだろう。
 それは、その当時の人が、その時点で、それぞれの生活をしていたということ、そして、その立場に踏みとどまることが必要なのだろう。
 その時代性を、安易に、抽象的に昇華してしまうことは、すなわち、偏見のもとに、後の歴史を形成することになるだろう。
 正義、正論、真実というものは、なかなか見つけられないもの、ある意味、形而上的な視点からしか俯瞰できないものである。
 それならば、その(神のごとき)視点に立てないという現状認識、それは、残酷なことかもしれないが、その立場にあり続けることで、見ることのできるものを吟味していくことしかできないのではないだろうか?
 (洞窟の比喩ですかね?)
 
 まぁ、歴史というものの把握ということが、とても難しいということに尽きるのでしょうね。