110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

あ・うん(向田邦子著)

 本書は文春文庫版で読む。

 山本夏彦に名人と呼ばれた著書の唯一の長編小説。
 はじめは、その名人といわれた、書きかたに興味を持ったが、徐々にその内容にひきこまれる。

 人の中には暗い部分がある、それを知りつつ、表に出さないこと、それは人生なのだろう。
 そして、それが人間なのかもしれない。

 「あれ、なんていったかな、ほら、将棋の駒、ぐしゃぐしゃに積んどいて、そっと引っぱるやつ」
  ああ、こういうのねと女二人が、積み将棋の手つきになった。
 「一枚、こう引っぱると、ザザザザと崩れるんだなあ」
  女二人、そのままの手つきで次のことばを待った。
 「おかしな形はおかしな形なりに均衡があって、それがみんなにとってしあわせな形ということも、あるんじゃないかな」
 君子がたずねた。
 「ひとつ脱けたら」
 「みんな潰れるんじゃないですか」

 本編「やじろべえ」の中の一説だが、これが最後の「四人家族」の、前振りに思えてしまう。
 それは、意図してここに置いたのかどうかはわからない。
 それだけ緻密な、積み上げ方なのだろう。

 確かに本編は作りごとではあるが、そういえば、何の約束も無く人の家を訪問できる時代は、確かにあったよなぁ・・・そんなことを思うのだ。

 今は、よく見ると「功利主義」4文字を額のところに彫りこんで闊歩している人が多いんだよな。