110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

プラトンⅠ~Ⅳ(田中美知太郎著)

 本書は岩波書店1979年から1984年にかけて刊行されたもの。

 本書は名著だ、著者の晩年の作品であり、長年研究してきたプラトンに関しての(その)知識・知恵を思い切り開放したものだ。
 手にしてみて「これは読まなければ」と緊張させる本は少ないが、本書はその中に入る。

 本書は、プラトンの著作を数冊読んだ上で取り組んでも良いし、プラトンに興味があるが未だ著作を読んだことの無い人にも良い導き手となる。
 私は、プラトンの著作をいくらか読んでみて、少し面白くなってきたところで本書を読んだのだ。
 まさに、著者の講義を聞かせてもらったような感じで、プラトンの著作の「どこ」に眼をつければ良いのか、また、結論が出ないまま終わってしまう「対話編」を、どのように解釈するのか・・・などと、大変良くわかるのだ(本当の奥深い領域には残念ながら私の力量では触れられないが)。
 確かに、これだけの厚みのある著作を読むのは大変なことだが、本書にはそれだけの価値があると思うのだ。
 4冊の内容は、Ⅰ.生涯と著作、Ⅱ.哲学(1)、Ⅲ.哲学(2)、Ⅳ.政治理論となっている。
 
 政治理論は、哲学の実践面という色合いであろう。
 今年もまた選挙がある、2500年も前の政治思想が役に立つのだろうか、また、哲人君主制などの極端な考え方に疑問を持つ方もあろう、しかし、本書ではそういう一部の言葉の解釈による、思想の一人歩きを戒めているところもあるように思う。
 プラトンは、ひたすら善い哲学、善い政治を目指し、その理想(目標)としての善のイデアを置いたのではないだろうか、その探求の道を示すために、田中氏は、本書の著者のⅡ、Ⅲ(哲学に関する部分)で、プラトン晩年の「法律」を中心に理論を展開したのではないか?

 イデア論は論理的でない部分がある、しかし、現実的に現在の政治も論理で割り切れないではないか?・・・・国の財政赤字を減らすのは、増税なのか、減税なのか?この2つの手段の列挙だけでは問題は解決しない、その先には、善という考え方が出てくるのだ。
 いや、そもそも、プラトンの国家論には節制という意識が強く、現在の様な状況にはそもそも陥らないはずだ(すでに、現状で逸脱しているのだ)。
 そう考えてくると、プラトンの時代から数千年経た日本という国を、彼がみることが出来るならば、溜息をつくのではないか、と思うのだ・・・いや、その前に、ギリシャを見て溜息をつくかもしれないのだが。

 さてさて、本書の善いところはたくさんあるのだが、それは、図書館などでいちど手にとってご覧いただこう。
 最後に、あとがきの文が振るっているので抜粋する。
 ・・・わたしは忠告して、いま外国で流行しているらしいプラトン関係の書物や雑誌論文の類は、大方つまらないから読むのはよせと言うだろう。・・・わたしの場合は流行に取り残される老人の無駄な忠告と笑われるだろう。しかしわたしも長年月の間にその時、その時で変わっていく哲学流行というようなものを自分自身で経験してきたし、それに影響されたプラトン解釈やプラトン批判--その多くは今から見ると全く奇妙なものであったが--いろいろ読まされてきたのである。そのような流行に乗っているとプラトンの問題はもうすっかり片づいてしまって、自分たちはもうプラトンよりもずっと悧巧になっているという、何ともいい気になるのでそれなりの景気のいい議論もできるから、わたしも昔からそのような人たちの相手をさせられて大弱りしたことがある。しかしそんなことをプラトンはどこで言っているのか知らんと考えると、何の確実な根拠もないようなことが少なくない。これは外国でもわが国でも同じように思う。その恐るべし無智とそれの無自覚が、見たくもないのにそこに見えてくるというわけである。いわゆる情報過多の時代に生きているわれわれは、そういうがらくたを突破してプラトンそのものに近づかねばならないわけなのだ。・・・・

 機会があれば再読したい本だ(ただ、きついなあ)。