110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

知覚の現象学(M.メルロ=ポンティ著)

 本書は、法政大学出版局(叢書ウニベルシタス)版で読む、他の翻訳としてみすず書房版もありこちらがいささかメジャーかもしれない。

 みすず書房版は2分冊で少し私にとっては高価だったので、法政大学版を選んだ。 
 ただし、読む労力は大変なことに変わりはない、数年前の「東京国債ブックフェア」で入手したものの読みきれずにいたのだ。
 それが、ここで一念発起して読了した・・・少し肩の荷がおりた。

 以前いただいたコメントで、本書について「詩的で、東洋文化的な印象・・・」とあったのですが、確かに共感できるところがあります。
 特に本書は、知覚に関して論述されていますが、「色即是空、空即是色」(ひどい比喩だな)の感覚があるのです。
 著者の問題意識は、人間のそのままを考察したいということだと思います。
 ところが、哲学や生物学は、その生身の人間を一般化・普遍化して考えようとします、そうすると、その一般化の図式からこぼれ落ちてしまう何かがあるわけです。
 その何かを論述してはすくい上げて、またこぼれ落ちると、すくい上げるという、何でしょう?弁証法的な取り組みをするのです。
 ですから、私は本書を最初から最後まで長い時間を掛けて読んだのですが、最後にたどり着いたのは、元に居た場所となんとなく同じ場所なのです。
 でも、間違えてはいけないのですが、同じ場所にいるからといって、同じ状況ではないのです。

 こんなことを思い出していました。
 仏教の教えでは、大変な苦労をして修行を行いいろいろな知恵を蓄えていきます。
 そして、そのおかげで人間離れした能力を得たりします、これが丁度折り返し地点です。
 そして、そこから先の修行はというと、その覚えてきたことを忘れていくということなのです。
 そういうことかもしれないなぁ・・・・てな具合です。

 著者も、この回答の出ない問題に魅せられた人なのでしょう。
 そんなことを思ったのでした。

 身体論の古典にふさわしい一冊でした。