110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

そんな日の雨傘に(ヴィルヘルム・ゲナツィーノ著)

 本書は白水社2010年刊行のもの、私としては珍しく新本である、それは何故かと言うと、7/11まで東京ビッグサイトで開催されていた「東京国債ブックフェア」の会場で入手したのだ。
 今回は、本の種類に眼がくらんで購入意欲が沸かなかったのだが、本書だけは表紙にある「自分が許可してもいないのにこの世にいる」というフレーズや、帯にある「46歳、無職、つい最近、彼女に捨てられた。どこにも居場所がない・・・・・・」というフレーズに共感を覚えたからでもある。

 
 さて、本書を一読し、訳者解説を読むと(翻訳者とは)少し視点が異なっていることに気づいた。
 それは、本書では、主人公の設定は、例えばフロイト精神分析や、サルトルなどの実存哲学が背景にあり、その実存(生き方)と世界(世間)との差異に違和感を持っているように思うのだ。
 そして、最後には、その違和感を自覚しながらも(それを克服して?)この世界に生存していこうとする意志のようなものが芽生えてきたように思えるのだ・・・・・。
 しかして、この世の中に適合することは、この主人公にとっては幸せなのかどうなのか?
 本書に主人公と対峙する、それぞれの人々を観察すると、何か特異な要素を持っている様に思えるのだ。
 それは、多様性というものなのかもしれない。
 しかし、多様性を尊重すると、その極に個人主義が浮かび上がり、余り、その個人主義が強ければ、一種の狂気となるような気もするのだが。

 本書の原作は2001年に出版されている、実存主義的な小説ということで考えると、カミュの「異邦人」とは随分と異なる展開、異なる思想が横たわっているように見えるのだ。

 ちなみに、読書としては気楽に読めたので満足。