110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

この三十年の日本人(児玉隆也著)

 本書は昭和50年新潮社刊行のもの、私は昭和58年初版の新潮社文庫版で読む。

 「この三十年」とは、戦争後三十年のこと、本書では、「若き哲学徒の手記(講談社学術文庫版で読める)」に関わる美談についての検証考察、「同期の桜(軍歌)」の成立について、学徒出陣とその後の生存者の様子、「司王国」について、「鐘の鳴る丘(童謡)」とその歌にあわせて作られた現実の「鐘の鳴る丘」について、遺族の村(靖国問題)等々、戦中・戦後にかけての、特徴的な事件と人を追いかけている。
 戦時体制という状況に生きることと、その後の状況に生きること、この2つは、ある意味矛盾した状況を生み出すのであろう、それは、その戦争を実体験した人々しかわからないものであり、本書で取り上げられたそういう人々は、その矛盾に苦んでいるように思う。
 人間が極限状態に陥るときに、その本性をあらわすものだろうか、戦争体験を経た人々は、その深い人間洞察を、好むと好まざるとに関わらず会得してしまったのであろう。
 人よりはるかに深く物事が見えるということは、つらいことなのかもしれない、そして、現在、その戦争を体験してきた人は徐々に減りつつある、彼らは戦後日本を再興した人々であるが、徐々に減り続けているのだ。
 私には彼らのことを体験的に理解することはできないだろう、しかし、その無言の発言について、何がしか考えていかねばならないのではないかと思うのだ。
 それは、戦争体験者の掛けたひとつの魔法であり、それを解くことを後世に残したのであろう。

 なにやら偉そうに書いたが、本書は、とても興味深い本であり、もし見つけたらぜひ読んでいただきたいお勧めの一冊である。
 30年以上前の本に今頃感動する迂闊さには反省することしきりであるが・・・・