110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

キリストの勝利(塩野七生著)

 「ローマ人の物語」の14巻目、これで、このシリーズの既刊のものは読み終わることになる。あとは、今年刊行されるであろう15巻目を心待ちにするというわけだが・・・どうも気持ちは落着かない。
 最初は、怖いもの見たさで「ローマ帝国の拡大」そして「滅亡への道」を「わくわく」しながら「次の巻、そしてその次の巻・・・」と読んできた。
 しかし、塩野さんも指摘しているように「ローマ帝国」は滅亡したのではないのかもしれない。「融解」したのではないか?
 結果が出てしまって「明らか」になった時点を歴史上の重要なポイントとするが、実際はそのかなり前に「前兆」があり、また既に後戻りできない「選択」をしている「時点」が、その「史実」の前にあるのではないか。
 以前、読んだ「文明崩壊」(ジャレド・ダイアモンド著)でも、それなりの文明があり、その崩壊を避けるだけの知性があるにも拘らず(言葉は悪いが)「やり過ぎて」後戻りできなくなり滅亡した事例がたくさん出てくる。
 本巻の最初の「コンスタンティウス」は皇帝のの座を巡り親族を謀殺しまくるという「内乱」の世界が紀元4世紀かと思うと、次に、往年のローマを復活させようとするかに思える、(背教者)「ユリアヌス」が登場する。
 「ユリアヌス」は、哲学を愛好し、また、当時のローマを往年のローマ帝国に復活させようと努力する。ここまで「ローマ人の物語」を読みすすめてきた「一読者」としては「カエサルの復活(「奇跡の救世主」と書こうとしてやめた)」と思うわけだが、当時は既に「キリスト教」を中心とする「大衆」が形成されつつあった。彼らは、別に昔の「偉業」や「異教徒のローマ人」にも興味は無いのであった。「ユリアヌス」は、ペルシャとの戦役で(もしかすると味方の弓に撃たれて)死んでしまう。わずか19ヶ月であった。4世紀にもまだ「復権のチャンス」はあったかもしれないが「大衆」が許さなかったようだ。
 ちなみに「背教者ユリアヌス」(辻邦夫著)はいつか読んでみたい本のリストに加わった。
 後は、もう流れに身を任せるしかないだろう、新しい文化が誕生する場合に陥ることだが、古い文化を完全否定することがある。「テオドシウス」の時代、彼は皇帝でありながら、キリスト教の洗礼を受けた。そして、キリスト教の信者の一人として「キリスト教」を「国教」とした。そして、それまでの「ローマ・ギリシャ文化」の資産を破壊した。そして、彼の死後、二人の息子に、ローマ帝国を分割し分け与えた。「西ローマ帝国」と「東ローマ帝国」の誕生である。
 ローマ帝国の滅亡時期まであと1冊あるはずだが、既に「機能停止」のような気もする。
 現在、同様な選択問題の一つ(ひとつ間違うと「滅亡」につながる問題)が「環境問題」ではないかとも思う。