110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

小説ペイオフ(木村剛著)

 本書は、2000年講談社「通貨が堕落するとき」として刊行されたもの、講談社文庫版となるときに本題名となる。

 著者は、少し前にいろいろと取りざたされた人物ではある、しかし、その人物の行動と著作物は必ずしもリンクはしない。
 本書は、2000年刊行と10年以上前の作品だが、現在にも通じる教訓があるように思われる。
 
 特に、金融システムの不良債権処理を先延ばしにするために、国債発行による公的資金の投入で財政悪化を引き起こすという本書のシナリオは、この前提は、現在の状況と異なるかもしれないが、現実の財政赤字が、私のような一般的な国民(=愚民かもしれないが)には、わけがわからないうちに増加する傾向にあることは、ご存知のとおりである。
 本書を読んでいると、金融システムの機能不全が、国内の経済成長を阻害しているようにも見えるが、不良債権処理は、現在のところ外見上完了したように見える、すなわち、経済成長のために金融が大きく足を引っ張るということはないように思える。
 しかし、経済は一向に振興しない。
 しかし、財政赤字は増える。

 ちなみに、本書では、小説的にハッピーエンドにする意向からか、超インフレを起こして、赤字財政を立て直すという筋書きになる(大前研一氏も、数少ない財政再建策のひとつにあげている)が、これは相当厳しい状況が予想される、特に、高齢化の進んでいる現在の日本では実行しにくいかもしれない。
 しかし、本書でも「日本はなまじ金持ちだから、問題の先送りができてしまう。なまじ体力があるから、先送りできてしまうんだ。皮肉なものだ。先送りできるが故に、かえって経済力の基盤を毀損させてしまうわけだ。問題の先送りは、長い歳月をかけて、ゆっくりゆっくり日本経済の骨髄を腐らせていく。そして腐りきっておカネがなくなった頃には、立ち上がる体力すら残されていないという状況になってしまうだろう。そんなことは許されない。」
 とあるように、今現在の状況では、問題の先送りが現在もまだあるように思われる、私の狭い視野では現実的なデータは少しも無いので妄想に近いのだが、昨今表面化してくる事象が、今までならありえない状況を現出させているように思う。

 しかし、この今まで無い事象が、吉兆なのか凶兆なのか、その判断もなかなか難しいことだ、そういう意味では、少しずつでも、何かを知る手がかりを求めることを続けることしかできない様に思うのだ。
 そういう意味で、本書は、今についても考えられる著作と言えるのではないか?