110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

花鳥風月の科学(松岡正剛著)

 本書は、1994年淡交社刊行のもの、私は、2004年初版の文春文庫版で読む。

 本書のさらに大元は、1982年の朝日カルチャーセンターで行われた「イメージの誕生」という十回連続の講義にあったようで、今からすると27年も前に、このような試みがなされていたわけだ。
 私は、松岡正剛の著書を基本的にひいきにしているのだが、そのひいきも含めて、少し批判したいところがある。
 例えば、表題の「花鳥風月の科学」とあるが、本当にこのような科学があるのか?と感じながら読んでいくと、そんなところにこだわりがお有りですかという具合に、きちんとそれらしい科学的な説明も出てくる、そう、この著者は、読者の読み方まで捕らえて書いているのだ。
 そして、この花鳥風月を題材にした十章を読むと、良くもまぁ、これだけ多方面にわたって引用しながら、ひとつの文章にまとめていくものだと、その博覧強記と知識の幅に驚嘆せざるを得ない。
 しかし、良く考えながら読むと、やはり、花鳥風月を科学として取り上げるのには無理があるし(科学は、科学として把握できるものを対称にするのに対し、花鳥風月は、やはり非科学だと思うのだ)、例えば、仏(仏教)を取り上げる章も、以前「釈迦(瀬戸内寂聴著)でも疑問を提示したところだが、厭離穢土という現状否定的な発想、すなわち世間に対する負の要素があるはずが、そういうところは極めて軽く取り扱っていることに気づく。
 まぁ、1982年でも1994年という本書が現れた時代背景は、かつて仏教が流行ったときに比べて極楽のような状況であることは事実だと思うが、この綺麗な歪曲については少し疑問を持っている。
 当然、この著者がそんなことに気づかない訳はない、それだけの知識の深さはあるのだが、ネガティブな要素をみせず、ポジティブな要素だけを提示するところ、そこが、ネガティブな私にとっては残念なところだ。
 さて、著者も気づいているだろうが、本書のテーマは、それぞれの章が、一冊もしくはそれ以上になりそうな奥の深いテーマであり(「ルナティクス」という月に関する著作がある)、それを十分著す力量も著者にあるのだが、ただ、面白く読めるだけでなく、もっと深く追求した著作を著す気はないだろうか(全10巻以上になりそうだが?
 
 まぁ、この著者が本気を出して書いたら、少なくとも、私は、一読では読み込めないとは思うが・・・・