110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

春と修羅(宮沢賢治著)

 本書は近代文学館編の精選名著復刻全集のうちの一冊で読む。

 このシリーズは原作の出版当時の状況を忠実に再現するというこだわりの全集で、まぁ、読書の秋(そのうち死語になる)の、読書趣向としては面白いかなという感覚で読んでみた。
 
 本書は、既に古典としての風格であるので今更何を言ってもしょうがないのだから、私の感覚を記すと。
 賢治の心象スケッチは、浄土を思い浮かべていたのではないかと思う、しかし、その浄土という理想は、現実的に現在の我々が棲んでいるこの時代では実現されている、少なくとも、衣食住が足りている上に寒暖の影響さえ少ないこの世は、多分賢治の目で見れば浄土であろう。
 それならば、何故、私はこの詩集の、イメージに憧れるのだろうか、それは、逆に、賢治の時代には、畏れるべきものでもあった自然が見えているからではなかろうか?
 あまりに人工的なものに取り囲まれた、現代の浄土は、何か居心地が悪いところがある。
 それは、上手く言えないところがあるのだが、自分が、自然から生み出されたものだからなのではないか・・・・そんなことを考えるのだ。
 
 また「無声慟哭」から「オホーツク挽歌」は、愛する者を失った悲しみを、ここまで表現できるものかという一つの奇跡を見せてくれる。
 それは、現在の様に多様な表現手段がないことによる、表現の研鑽があったのではなかろうか?