110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

絹と明察(三島由紀夫著)

 本書は新潮文庫版で読む。

 全体の話の流れは、戦後の早い時期に顕在化した労働争議を取り扱ったもので、現在とは違和感のある設定となるだろう。
 しかし、駒沢善次郎を旧体質、(若い)大槻を新体質と見れば、現在にも通じる視点が得られるのではないのだろうか?
 そして、解説にいわく、本書の中で大きな役割を与えられながら、その実体が皆目見えない岡野という人物をどうとらえるのかというのも今日的に考えてみると面白いのかもしれない。
 話は、大槻を中心とする労働組合が、駒沢を社長とする会社側に勝利するという流れなのだが、果たして著者は、単純に社会主義の勝利を描きたかったのだろうか?その後の著者の行動を考えると必ずしもそうでないように思えるのだ。
 私の浅はかな読み方でも、若い力が古い体制を打破したというそのことだけであれば、最終章に「駒沢善次郎の偉大」と名付けたことに疑問が湧いてくる。
 何が「偉大」であったのだろうか?
 小説の構成としては後日談的な(この)最終章を、重視するかしないかで本書の読み方は変わってしまう様に思うのだ。
 そして、本書中にハイデッガーがでてきたことには少し驚いた、たぶん、実存について何かを示唆しているように思えるのだ。