110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ランジーン×コード(大泉貴著)

 本書は宝島社「このライトノベルがすごい!文庫」のもの、ライトノベルなのだ。

 まさか、この年でライトノベルにはまるとは思わなかったのだが、本書は、ライトノベル的な要素とともに、ウィトゲンシュタインレヴィ=ストロースというそういう方面のキーワードが見え隠れする作品なのだ。
 今回は、この私の半分ほどしか生きていない著者なのだが、敬意を表して現在刊行中のすべてを読んでから書く事にした(6巻分ね)。

 さて、本書は、ライトノベル作品としての娯楽性やドラマを楽しんでも良いのだが、その裏にある、言語というものについて、まぁ読みようによっては)考える事ができるという、とても素敵な、哲学的、心理学的、社会的な作品だ。
 この作品の中心として設定されたのが「コトモノ」と呼ばれる新人類で、ある種類の言葉を取り込む事で脳の変質を起こし、常人とは異なる世界観をもって生きる様になった人たちということだ。
 そして、コトモノとは「コトバ」と「ケモノ」を複合して作られた造語だが、私的には「事物」という字をを(読み過ぎか?)重ねて与えても良さそうに思うのだ。
 そして、この「コトモノ」の定義とは、精神病としての統合失調症とあまり変わらない様に思うのだ。
 だから、話が壮大になった分を差し引くと、意外と身近にある状況を映し出しているのではないのだろうか?
 私たち人間は、言葉でがんじがらめにされている、しかも、その言葉によって、自分の思考も変化していく、例えば、日本人ならば日本語という言葉の土台の制約を受けるだろう、また、勤め人ならば、自分の所属する会社の法(社風)に規制されるだろう、もし、あなたの会社が糾弾された場合、あなたは、会社の思考で受け答えすることだろう、その要因には、その集団で固有の(ある)言葉が関係しているはずだ。
 そういう、言葉というものについて考えるための「物語」が本書の位置づけであろう。
 だから、本書はライトノベル哲学(書)と言えるかもしれない。

 私は、本書を概観しながら、随分前に読んでみた、井筒俊彦の「意識と本質」という本を思い起こしたのだ。
 しかし「意識と本質」は、私には難しすぎて(正直)理解できなかったのだが、本書に「沈黙の海」と称された世界、ある意味形而上の世界のイメージは、少し体験できた・・・と思う。

 ちなみに、現行6冊の中では、一般的評価が低そうな第一巻目が一番良いと思った、連作する様になってからは、すこし娯楽性が前に出過ぎていると思う。
 なにしろ、第一巻目は「このライトノベルがすごい!大賞」の応募作品なので一冊完結で書いているので凄みがあるのだ。
 逆に、そういう思想性の見えないtale3.5の短編集は、私にとって今ひとつ冴えないな。

 というわけで、この作者には、ライトノベルでそこそこ稼いだら、本格的な小説として本シリーズをリメイクして欲しいと切に願う訳です、戦闘シーンなど不要で、言葉と言葉のギリギリの心理戦の様な作品を期待しています。
 
 ちなみに、この宝島社のシリーズはなかなか書店に置いていないので大変でした、第一作、第二作は、古本屋で調達できましたが、最近刊を池袋の大きな書店に探しにいってもありゃしないのでAMAZONで買いました。
 このまま、消えてほしくない作品&作者なので、少し、心配ではあります。