110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ユキの日記(ユキ?著)

 本書は仮名でユキと言われた少女の8歳から21歳までの日記の抜粋、みすず書房1978年刊行のもの。

 本書を編集した笠原嘉(よみし)は、精神医学関係では著名な人、だから精神病に関係のある本ではないかという先入観もあった。
 しかし、それは裏切られる形となる、著者(ユキ)は、病気を患い、学校に行けないなど普通の人の生活ができない中、自分というものを問いつめていく。
 宗教的な規範や、自分の読書などの学習で培ったものなどをもとに、少女とはとても思えない思想を展開していくのだ、それは、他人を思いやり、邪魔にならない様に配慮していくというもの、それは、自分を抑えて生きていく事であり、まさに、聖人のごとき暮らしをしていくのだ(「悟り」という言葉も出てくる)。

 しかし、その聖人のような生活に変調を来す時がくる、それが、本書の最後の1年である、20歳から21歳に掛けて現れる、その変化は、読んでいる者に違和感を覚えずにはいられない、突然文章が饒舌になり、ところどころ意味不明な言葉が挿入される。
 それは、他人を思いやるばかりに、自分自身が潰れてなくなってしまった状況に思われる。
 自分はバラバラになり統一がとれないのだが、その分解された自分の部品をなんとかつぎはぎしようと努力する、気の遠くなる様な工程である。
 
 さて、転機、原因はどこにあったのだろうか?
 私的な考えでは、20歳という年齢、そして、大人になるということが要因ではなかろうかと思う、それは、端的に言うと彼女の女性性と対面することでもあり、それまでは、子供の世界、理想の世界、例えば、本を読んでもある程度わかる世界に暮らしていたものが、現実の世界、他人の居る世界、sex、結婚、出産というような、他者との行動を伴う世界に迎合できなくなったからであろう。
 少女としては生きられなくなったそのときに、破綻したのではないかと思う。

 この著者は、ある意味純粋な人であったわけだ、それでは、普通に生きている人とは、どういったものなのか?・・・・多分、そういうイデアの世界から現実の世界に飛躍できた人であろう。
 それは、少し(大分?)悲しい事ではある。