110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

生きさせろ!(雨宮処凜著)

 本書は2007年太田出版刊行のもの、私は、ちくま文庫版(2010年初版)で読む。

 一つ前に、社会の喪失(中公新書)で市村弘正を取り上げたが、本書はさらに現実的に現代の若者の姿に肉薄する本である。
 以前にも「自殺のコスト太田出版)」を読んでいたので少しキワモノ的な印象を持っていたが、本書でそれは払拭された、たしかに感情を爆発させるような文章だが好感をもてる。

 私的なイメージでは、鎌田慧小林多喜二という体をはりながら書く作家たちのうちの一人と言うことができよう。

 現代の若い人たちがどのような労働状況にいるのか?そのうち、不定期雇用、フリーターと言われる人たちがどのような境遇なのか?さらに、それは彼らが望んでなったのか?等々の疑問は、なかなか見えにくいところがある。
 そもそも、そういう境涯にいる本人が「自己責任」の呪縛に囚われ、一人相撲している姿が見えてくる。
 しかし、他方それとは逆に幸せに過ごしている(若い)人も多数いることを忘れてはならない。
 
 それならば、なにを持って評価すればよいのだろうか?

 飛躍した議論をふっかけるように、生態系の話をひきあいに出したい。

 私は、昆虫、それも小さいものなど特に、簡単に殺してしまっている。
 しかし、この世の中から昆虫がいなくなれば、生態系が維持できずに私たちも滅びるしかない。
 だから、一見弱い者を淘汰することには大きな危険性を伴う。
 日本の経済の低迷ということが叫ばれている、ある経済学者は、労働人口が減るのでGDPが低下するのはあたりまえだという発言をしている、これは間違いないことだろう。
 しかも、若い人たちの処遇が本書のような状況ならば、さらに、人口は低下し、教育程度も低下することも、ある程度必然的になる。
 その反面、自営業者、例えば小商店などの廃業がここにきて(多分)高齢化の進展によって(私にも)目につくようになってきている。
 すなわち、上(高齢者)も下も(若人)も、社会的、経済的に弱い人たちの、経済的な低迷や離脱傾向がある。
 そういう小さな動きはなかなか目に止まらないし、それぞれの事象は全体に対してとるにたらない規模に見えるだろう。
 しかし、ある臨界をこえるとどうなるだろうか?
 まぁ、それが生態系を維持する昆虫の話だ。

 今の若い人たちは将来にそなえ、自分たちが生きられる体制を、意識するにせよしないにせよ作りだそうとしているのだろうと思うのだ・・・おじさん(私)やおじいさんたちは将来「それ」に取り残されることになり、高価な対価を支払って「それ」を入手することになるのかもしれない。