110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ポストモダン保守主義(広岡守穂著)

 本書は1988年有信堂刊行のもの、日本の絶頂期(かな?)に著されたもの。

 何故日本はここまで成長できたのか、それは本書で「後期産業社会」という概念で示され、その大きな要因とされる「組織化」と「市場化」(一見矛盾する概念である)が当時の日本で良く実現されたからだというのだ。
 当時の日本の勢いを背景に日本論が様々取り沙汰されたが、そのうち著者は伝統的な日本文化に発展性の要因があったことに懐疑的である、すなわちイエ制度やムラ社会が発展のの土台だとすることに否定的なのだ。
 我々は、その後の日本を知っている。
 本書でも指摘された「イエ的」な会社(終身雇用、年功序列・・・)は少なくなりグローバル化された会社が生き残る。
 個々人の収入格差も拡大傾向にあり、なによりも長い間低成長にあえぎ中国にGDPで抜かれた。

 これは何を意味するのだろう?
 本書の副題に「業績がものをいう社会の陥穽」とあるが、ここに鍵があるのだろうか?
 本書でも、国民の勤勉性や市場性(化)について書かれているが、それでは、これより先成長するにはどうすれば良いのかの指針ではなかった、すなわち、結果として成長した要因が上記の2つであったが、これから先も成長する要因である・・・という風に短絡できることではなかったのではないだろうか?
 当時の有頂天は経済のパイが拡大していたその余力により実現されたことではないのか、その後の低成長でそれらは否定・変容され現在に至る、下世話な話、金の切れ目が・・・ということだったのではないのか。
 だから、本書は間違っているということが結論ではない、著者は持論から当時の日本が今後も「ポストモダン保守主義」を維持できるのかという問いを投げかけている。
 本書には(戦後の)日本礼賛的なところもあるがその当時の社会に生きて著述することを考えれば慎重な取り組みだったと思うのだ。
 それは、私たち自身のことを考えればわかる、そう、一寸先がどうなっているかはわからない、後になって振り返ると見えてくる。