110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

最後の「日本人」(阿部善雄著)

 本書は岩波書店1983年刊行のもの、その後、岩波現代文庫版で復刊されたようだがamazonで見ると絶版状況のようだ。
 朝河貫一の生涯をつづった物、古本屋でこのこの名前を見たときに「日本の禍機」が頭をよぎったので確認すると記憶に間違いはなかった。
 記憶の間違いは「日本の禍機」が15年戦争中に書かれたものと思い込んでいたところだ。
 しかし、その本は明治時代に出版されていたのだ。
 
 彼は、日露戦争、そして15年戦争と、2つの戦争処理に対して、直接的・間接的に多少なりともにアメリカの方針に影響を与えたと思われる。
 彼が居たので、少し戦争処理に手心が加わった可能性は否定できないが、残念ながらその検証はむずかしいだろう。
 また、彼の見解がことごとく的を得ているように見えるので、却って、日本人はその浅慮をあばかれる感じがするのか、表立って評価する風潮はないように思う。
 しかし、本書の中にあるのだが、斉藤隆夫の反軍演説についても批判しているというくだりからして、どれほど厳しい目で(当時の)日本を批判しているか、その程が知れるのではないだろうか。

 彼を、批判者や予言者であり実行者ではないと片付ける人もいるだろう、しかしながら、敗戦後の処遇を、特にドイツと比較して考えると、その影響力は皆無ではないと言えそうだ。
 
 戦後、平和な時期が続いていたが、ここにきて、いわゆる東アジアの動向も変わりつつある、日本人の行動も表面的には変わってきているように見えるが、その根はどうだろうか?
 本書もよかろうが、意のある人は「日本の禍機」を一読されても面白かろう。