110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

ユートピア(トマス・モア著)

 「言葉は知っているが、実際は読んだ事が無い」という本のベストテンをやると出てきそうなのが本書。
 恥ずかしながら、私もやっと読んだ。ユートピア(どこにも無いという意味)島の状況を描いて、ある種の理想の政治体系を描いている本。
 訳出(岩波文庫版)が良いのか、原書自体が「啓蒙的」に判りやすく書いてあるのか、とても読みやすいものになっている。

 読むとすぐ投げ出してしまいそうになる。
 それは、全体的に「共産主義」的な色合いが強い事による。
 そのため、ソ連の崩壊を念頭に置き、経済や科学技術が退廃して崩壊して行くなど「既に結果の出た体制」だという意識が働いたからだ。
 しかし、誤解を生むかもしれないがこの様な「共産主義」は思想としては、まだ死んでいないと思う。
 資本主義社会でも、福祉などの面で取り込まれているし、マルクスの想定した国があの「ソ連」であったかどうかは検証のしようが無い。

 また、人民の活力を上げるためには、哲学があるように思う。ユートピア島では「ストア派」の哲学を導入しようとしている。
 話が「ユートピア」から、それるが、未だに、わからないのは、何故、紀元1、2世紀のローマ人は、あのように「清貧」に働けたのかだが、その要因の一つは当時のギリシャ哲学の考え方が入っているためでないかと思う。

 そして、宗教は基本的に自由に信仰が出来るが、カトリック教徒のモアとしては「キリスト教」が一番優れたものとしているようである。

 また、特筆なのは、共産主義でありながら、実は、金などの価値のある金属(レアメタル)を豊富に持っているという事である。ただし、国内では無価値だが・・・。そして、それを貸し付けていると言う事から、ある意味「金融的」に成功している状況、すなわち「経済的」にも強いという事が記述されている。

 このような、「ユートピア」島を見ていると、一面、コンスタンティヌス帝のローマ帝国の姿がよぎった。
 そして、残念ながら、ユートピア島は、今も存在していない。
 (「Raising Sun」も沈みそうになった?)

 解説を読むと、モアはヘンリ8世に重く用いられたが、その後の宗教観の違いで死刑に処せられる事になる。当時のような言論統制下で体制批判の書を書くことがとても難しい状況下である事を表している。
 今の私のように「匿名」で書評が出来るのは、ある意味「平和」であると共に、ある意味「言葉の重み」が軽くなった(「無責任」)という事だと思う。