110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

海の都の物語(塩野七生著)

 「ローマ人の物語」に先行して、ルネッサンス期を中心にした著作を書いていた事は知っていました。
 また、その文庫本も出ていたのもチェックしていたのですが、なかなか「現物」にはお目にかかれなかったのです。しかし、ありました、またしても「古本屋」に・・・!!
 本作はヴェネツィア共和国(8世紀から18世紀の一千年)の誕生から消滅までを題材にしています。
 作風は、「ローマ人の物語」と非常に似ています。
 この作品の初出が1980年(続刊が1981年)なのですが、ローマ人の整備した街道を「高速道路」と呼ぶのに呼応して、ヴェネツィアが航海上必要な地域を、整備・支配する事を指して(海の)「高速道路」と名づけるところなど、視点の共通性が見られます。
 たぶん、「ローマ帝国」に関しても、当時の塩野さんは、書きたかったのでしょうが、より現在に近く、資料も多い時代から着手したのでは無いでしょうか。
 
 蛮族の襲来から逃れるために、海上に都市を築き、資源の無いところから、海上交易を中心に、独特のやり方で繁栄した「ヴェネツィア」。
 最後は、ナポレオンの侵攻でその国家としての生命を閉じる。 
 なにかと、日本と共通するところもあるように見えるが、そのヴェネツィアは、時代ごとに上手く「体質転換」している。
 最初は、海運による「商業」で伸張し、その後、自国内の「(軽)工業」を一つの柱にし、最後は、領土が広がった事により「農業」が国家を支える事になる。
 その転換点には、例えば、地中海方面の海上輸送の重要度が下がるなどという、大きなな障害が発生する。
 しかし、「現実主義」と評されるヴェネツィアは、これらの課題を、ある種の「したたかさ」で乗り越えていく。
 ただし、最後は、今まで無かった、領土を持ち「農業国」になることで滅んでいく。
 彼らの「政策」にはなんら揺るぎは無く、驕りも無く、ただ「諸行無常」という他は無い結果が残る。

 わが国も、長い平和が続いている。
 ヴェネツィアも平和の後で突然死の様になった。
 気をつけねばならない・・・・かもしれない。