110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

社会学者マシュー・デスモンド「適正な貧困率はゼロ。私たちはそれを実現することができる」

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良い記事も日本では読む人も少なかろう、私も、この記事はアーカイブ扱いだ。

社会学者マシュー・デスモンド「適正な貧困率はゼロ。私たちはそれを実現することができる」
4/8(土) 9:00配信 クーリエ・ジャポン
米国の貧困社会のからくりを暴きピュリツァー賞を受賞したプリンストン大学教授マシュー・デスモンド。自らも大学生のときに立ち退きに遭ったという彼が、新作では「持てる者と持たざる者が暗黙のうちに交わす契約」を紐解く。
2016年、ドナルド・トランプ米大統領選挙に勝利したとき、国内のリベラルなジャーナリストたちからは、トランプ勝利をもたらした「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」の“取り残された”市民の存在を考慮しなかったことに対する反省の声が多くあがった。
プリンストン大学教授マシュー・デスモンドによる『立ち退き:アメリカ都市の貧困と利益』(未邦訳)は、まさにその年に出版された。彼はその本で、ないがしろにされ続けていたものが何だったのかを非常に印象的に記している。
2008年から2年間、デスモンドは米国社会で最も厳しい状況に置かれている人々と生活を共にした。最初はトレーラーパーク、次いでウィスコンシン州ミルウォーキーの最貧地区で暮らした。支払い能力がなく、必死の思いで住居を転々とする家族とも、彼らから利益を得て路上に放り出す家主とも親しくなった彼は、最弱者を追い詰める制度の下で溺れゆく人々の横顔をなまなましく描写する。
その本で彼が行き着いたのは、残酷な結論だった──貧困がいつまでもなくならない最大要因は、立ち退きの脅威と現実が常にあること、そして他者をそのようなトラウマ的な貧困状態に閉じ込めておくことで大金を得ている人が大勢いるという事実だ。

貧困は一部に利益をもたらす
今回デスモンドは、ロンドンで『立ち退き』の続編となる最新作『米国による貧困』(未邦訳)について話してくれた。最新作はピュリツァー賞を受賞した前作とはかなり異なり、これまで彼が得たすべての教訓が冷静な眼差しで記され、どうすればこの現状を変えられるかが示唆されている。
「成人してからほとんどの時間は、貧困問題とともにありました。貧困問題について人に教え、貧困の現場で多くの時間を費やしてきたからです」
だがそれでも、と彼は続ける。
「もし誰かに『これだけ豊かな国なのに、なぜこんなに貧困がまん延しているのか?』と質問されたら、私はどう答えればよいものかと自問したのです」
彼は、序文のなかでいくつかの事実を列挙している。
「米国の貧困層が国を作れば、その人口はオーストラリアよりも多い」
「200万人を超える米国人が家に水道も水洗トイレもなく、3800万人以上が最低限の生活必需品を買う金もない」
「米国の子供100万人以上がホームレスで、モーテルや車、シェルターで生活している」
だが最新作は、そのような貧困を暴くだけではない。本書が描くのは、「ある者の生活を小さくすることで、ほかの者の生活を大きくする」こと、そして「持てる者と持たざる者、追い出す者と追い出される者が暗黙のうちに交わす契約」だ。
「通常、私たちが貧困について語るとき、『それは一部の人に利益をもたらす状態だ』とは言わない」と彼は書く。
そして「悲惨な状態を招いたのは貧困にあえぐ当人の責任」と当事者をなじる癖がある一方で、私たちは「制度上、ウェイターにチップを渡すことを禁じられたり、安価な集合住宅を近隣に建設させないために、建設反対派の政治家への投票圧力をかけられたりしているわけではない」。
それでも、富裕層が貧困層貧困状態にとどめさせておこうと決めれば、そうする方法は3つあると彼は論じる──「彼らを搾取する」「貧困緩和策より、富裕層の優遇を重視する政治家を選ぶ」「排他的な富裕層コミュニティを作り、格差を固定化させる」。

 

「貧困ゼロ」を目指す
こうしたデスモンドの思想の一部は、人生のかなり早い段階で形成された。彼の父は牧師で、母は彼と兄弟を大学に行かせるためにいくつもの仕事を掛け持ちしていた。しかし彼が大学に入るときに衝撃的な出来事が起こる。銀行が両親の家を差し押さえたのだ。当時、彼は両親の判断ミスを責めたが、自身も貧困研究の道に進み、やがて博士号をとる。それは差し押さえ事件がきっかけだったのだろうか? 
「違います。それはそれで面白い話になるでしょうが、私の場合はそうではありません。両親が家を失ったことだけははっきり覚えています。そのことを恥じていました。長いあいだ、それは両親のせいだと思っていました。ところが貧困について学べば学ぶほど、似たような境遇の人が何百万もいることがわかってきたんです。個人の次元を超えたところでもっと大きなことが進行していたのです」
彼のような仕事には、絶望がついてまわるのかもしれない。とくに過去に例がないほど人々の分断が進行している現代社会ではなおさらだ。デスモンドは、どのようにして絶望に陥らないようにしているのだろうか? 
「絶望したって仕方ありません。むしろ希望を感じさせることのほうがたくさんあると感じているんです。1960年代を考えてみましょう。当時の米議会は完全に二極化していました。しかし市民はそれを打ち破って、公民権法の制定という快挙を実現させました。彼らはどのようにそれを成し遂げたのでしょうか? 大衆運動によって議員に多大な圧力をかけたからです。
そういうわけで、私は現在のさまざまな運動にとても期待を寄せています。英国や米国のような国が持っているリソースのすごさを思うと、まったく息を呑むほどです。真の意味で現実的で賢明な税制改革が施行されるかどうかは、私たちの行動にかかっているのです」
彼は、私たちが長きにわたって強者の富を守るために欠乏の神話を聞かされ、そのメッセージが深く根を下ろし、同時に今それが崩壊しつつある例を挙げる。
「前作『立ち退き』の講演で米国内を巡回しはじめた頃のことです。カンザスシティの公立図書館で、この本の主要な登場人物の一人について話しました。最前列に年配の白人紳士がいて、こちらが話しているあいだずっと腕を組んで座っていました。講演後の質疑の時間、その男性は真っ先にマイクのところまで歩いていって、こう言ったんです。
『あんたは間違っている。連中に我々のものを受けとる資格はない。彼らは身ぐるみ剥がされても文句を言えんのだ!』
本当に気分が萎えました。その場にいた多くの人たちも、立ち退きを経験していたからです。そのとき私は、労働の美徳や、産めよ増やせよといった旧来の物語と衝突することが多くなるのだろうと思いました。ところがその後、その手の話はあまり聞かなくなりました。
人々はいまや新しい物語を欲しているのではないでしょうか。多くの米国人は心の奥底で、労働だけではもはや貧困から抜け出すことは不可能だと思っているのです。ほとんどの民主党員、そしてほとんどの共和党員は、『貧困は不公正な制度とそれがもたらす環境の結果だと思う』と世論調査に回答しています。私は世間知らずな楽観主義者ではありませんが、未来の希望まで失ったわけではありません」
デスモンドは、ある講演で聴衆からマルクス主義者だと非難を受けた話をし、「私は革命家ではなく、改革者です」と笑顔でこう続けた。
「昨日、テレビ番組『ポリティクス・ライブ』に出演しました。保守派のパネリストの一人が、『あなたが求めているのは大混乱と社会の崩壊だ』と非難しました。私はそんなことを求めているわけではありません。調べた限りの証拠が指し示すのは、ブランドもののハンドバッグを買う人がいると同時に、誰も食べ物を必死に探さなくても済むような社会に作り変えるのは可能だ、ということです」
政治家は、その真実をどう売り込めばいいのだろうか? 
「それは2016年を振り返ればわかります。トランプ政権や、ブレグジットです。こうしたフレーズは、市民の恐怖を煽って団結させるうえで非常に効果的でした。一方で『インフレが大問題だ』という声もあがっていた。
けれど、進歩派は夢を売り込む必要もあります。米国でも英国でも適正な貧困率は同じで、それはゼロです。私たちは貧困ゼロを目指すことができます。私は、政治家が立ち上がり、有権者にそれをはっきりと訴える声が聞きたいのです」[/YNG]